藤棚が好きだ。
僕のゴルフホームコースは、ティーグラウンド横に豪勢な藤棚があり、花の季節にはあたり一面に芳香が立ち込める。
日差しを遮る効果もあるので、夏の疲れたラウンドでは格好の休憩ポイントにもなる。
色合いも、また清楚でよろしい。
絢爛と咲き誇る豪華なバラやボタンもいいが、将に藤色一色で垂れ下がる藤の花に魅かれる。
ちょうど満開の桜が散り始めた日で、風情たっぷりの花吹雪を満喫し、大感激だった。
場内を散策していると、臨時の店で植木屋が花木を売っていた。
小振りの椿やヤマザクラなどが一鉢500円から売られていたが、その一角に10鉢ほど藤の花が置かれていた。
見ると、他の花木は全くの臓器仕立てだが、藤だけはなかなかの枝ぶりの気が揃っている。
手に取ってみていると、店主が寄ってきた。
「この藤はイイ樹だけどいくら?」
「2500円、こっちは更に5年ほど持ち込んだもので3500円」
「う~ん、チト高いな」
と一旦商談不成立だったが、店主は藤の培養方法を語り始めた。
曰く、「藤は水切れを嫌うので、水にドブ漬けした方が良い。」
更に、「植え替えの時に、根先を切ってはいけない、長い根は巻きこんで植えることがコツ。」
と、商売の秘密を教えてくれた。
妻が「主人は40年ほど盆栽をやっているので」と話しかけると、店主は「樹の持ち方と見方ですぐに分かった」と返す。
確かに陳列されている藤の木は、花が目立つように、客側に盆栽の正面ではなく背面を向けている。
それを客が、いきなり裏から見て感想を述べたので、彼なりに色々と蘊蓄を傾けたようだ。
色々と話しているうちに、彼は僕の住所近くに三年間住んだことがあるらしい。
「そんな縁があるから2000円にまけるよ」などとうれしいことを言うので、ついつい鶴ヶ城観光記念に一鉢購入した。
帰宅してすぐに、教えられた通りに鉢ごとドブ漬け。
すると翌日、藤の花がさらに開花し、臭いにつられアブが飛んできて、臭いに煽られ水に落下、そのまま溺死していた。
今のところ小さいが、来年になるともっと多くの花が咲く。
その時を楽しみに、一年間可愛がっていく積りだ。