今回、四泊したウィーンのホテルは、スターツオパーに最も近いとの理由で選んだが、今までのシティホテルとは全く雰囲気が違う。
五階建てだが、レセプションは一人しかいない。
最上階は客室もなく、部屋数は大目に見ても十数室だろう。
朝食で出会う宿泊者も、一番多い時で精々四組だったので、実にこじんまりしている。
我々の部屋は、四階、バルコニー付きで、劇場が見える側。
到着の日の受付は、愛想の良いオニイチャンで、チェックインの客に対して「オーストリアは山が多いから水道水が飲める、治安は良いが街中でのスリにはご注意」と、同じ説明を繰り返す。
表情は、まるで屈託がなくて可愛いので、好感を持ってしまう。
その水道水だが、部屋でコップに入れてみると、どう見たって濁っていて、とても飲む気になれない。
沸かせばいいかと、ポットに入れてみたら、表面に白色のカルキが大量に浮いていた。
エレベータは、古色蒼然としてヤツが一機だけ。
定員四人と書いてあるが、荷物を持つと二人で満員となる、
ボタンを押して待つことしばし、到着すると自分でドアを開ける。
そんな状態だから、いくらボタンを押して待っていても、誰かが使っていると、その人たちが終わるまでは、エレベータは来ない。
お急ぎの人や、セッカチの人には、はなはだ不向きのホテルだ。
朝食は、毎日同じものがサービスされている。
しかし生ハムやパンがおいしいので、全く不満はない、
何よりもコーヒーが、今まで飲んだ海外のどのホテルよりも美味かった。
従業員も、洗練されているとは言い難い。
髪を金色に染め、テッペンで蝶結びしている、見るからにゲイチックな受付のクラークは、夕食の予約を頼んだのを忘れていた。
確認すると、「忙しかったから忘れたので、この客が終わったらすぐに予約して、コールする」と返事する。
ところが部屋で待っていても、全く電話がかかってこない。
夕食に出発する時間になってしまったので、「もう、イイィ!」と少し抗議の意味を込めて強めに伝えても、ニコッと笑って「OK」と悪びれない。
我々の旅行は長丁場なので、下着類は自分たちで洗濯する。
ウィーンは天気が良く、湿度も低く、風が強いので、悪戯心で洗濯物をバルコニーに干そうと思い立った。
無論、スターツオペラの前のホテルに洗濯物が翻れば、大問題になるし、下手すれば国際問題にまで発展し、国外追放処分を受けるかもしれない。
よって、絶対に外部からは見えないように、バルコニーフェンスの後ろ側に隠して干すのだが、洗濯物が風で飛ぶのではとか、結構スリルがあった。
このホテルの、セイフティボックスには苦戦した。
六桁の暗証番号をAボタンで登録後は、開けるのも閉めるのもBボタン+暗証番号なのだが、要領がつかめず、結局は係員を呼んで指導してもらった。
これにて安心と思っていたら、出発の日に、いくら開けようとしてもエラーマークが出て、警告音が鳴り続ける。
フロント経由で係員が駆けつけてきたが、結局は合鍵を使って強制的に開けることとなった。
マァ、マイナートラブルはあったものの、今回のウィーンのホテルは、居心地の良いホテルだった。