もう50年以上も前だが、当時読んだ四コマ漫画が忘れられない。
作者は勝俣進、内容は、公園で二人の子供が口喧嘩をしている場面で、
・一人が「オマエのかあさん赤デベソ!」と相手を罵倒
・もう一人が「オマエのかあさん青デベソ」とやり返す
・そこに子供を迎えに来たお母さんが、「おやめなさい、兄弟喧嘩は」
とのオチがついていた。
子供が喧嘩をすると、お互いについついムキになってしまう。
そして、結構辛らつに相手を罵ってしまう。
社会常識が欠落している分、子供の喧嘩は差別用語も含めて情け容赦がなく、相手を傷つけやすい。
因みに、大人社会で「オマエのかあさんデベソ」と罵ると、名誉棄損らしい。
尤もそんな子供も、長じるに従い、言っていいことと悪いことの分別が付いてくる。
だからいい年をした大人は、たとえ相手を攻撃する時でさえ、言葉を選び、用心した言い回しに変わるものだ。
しかし、日本の首都、東京都の最高責任者、小池百合子にはこんな常識が通用しない。
IOCバッハ会長が、突然、何の相談もなく、東京オリンピックのマラソン、競歩の会場を、東京から札幌に変えたことがお気に召さなかったようだ。
記者会見でこの決定に、「青天の霹靂」と不快感を示すところまではありだろう。
しかし腹の虫がおさまらないのか、小池は続いて、とんでもないことを口走った。
「ロシアのプーチン大統領と親しい安倍総理、森会長がおられる。平和の祭典を北方領土でどうだ、と呼びかけてみるのはありだと思う」
これは、子供の口喧嘩以前の、憎まれ口の八つ当たりだ。
有権者の尊敬を集めるべき、東京都知事としては、決して褒められる振舞いではない。
この話には、三年前の伏線がある。
東京都知事になったばかりだった小池は、復興五輪を旗頭に、ボート競技会場を被災地長沼へ変えようとして、現地視察までしていた。
そして小池は、支持率80%を背景に、自信満々でIOCバッハ会長との直談判に臨んだが、この時、事前に何一つ相談もされていない、当時のJOC竹田恆和会長、森喜朗大会組織委員長は苦虫を噛み潰したような表情で同席していた。
ところが小池は、バッハ会長から「決まった通りにやるべき」と軽く一蹴され、赤っ恥をかいてしまった。
会談後のバッハ会長は、竹田会長、森大会組織委員長と肩を組むように退席し、小池だけが除け者の印象を強く与えた。
この時以来、IOCにとっての小池は、一貫して信頼できる対面ではなかった。
小池にすれば、IOCから「決められた通りにやれ」と言われたのに、そのIOCが勝手に会場変更を決めてしまうのは、不快極まりないだろう。
開催都市の最高責任者を、ツ〇ボ桟敷におかれたとの屈辱感も強いだろう。
今回の情報入手で、宿敵、森喜朗に先駆けされた、小池の気持ちも分かる。
しかしその小池自身は、三年前には人気取り最優先で、同じように勝手気ままに会場変更を画策していた張本人だ。
小池の「北方領土で開催」発言は、別段確たる根拠があるわけではない。
大嫌いな森喜朗と、都議会最大野党、自民党の総裁、安倍晋三へのイヤミが目的の腹いせ発言に過ぎない。
しかしすぐに、奪われた北方領土を取り戻したいと運動している元島民からは、北方領土を揶揄したような小池の発言に、批判が起きている。
小池はここでも、大人の対応からはかけ離れた、幼稚な嫌がらせをしたことになる。
しかも今回のIOCの決定には、「選手のために」との謳い文句がある。
実際に直前に実施されたドーハのマラソン、競歩では、四割の棄権者が出ている。
今年の夏の暑さを考えれば、東京でマラソン、競歩開催はリスクが高いと正論を吐かれると、なかなか反論が難しい。
ならば、夜間とか超早朝スタートにすればとの案も出てくるだろうが、札幌支持派からは大会運営の難しさ、観客の不便さを言い返されるし、そもそも、選手の健康第一なので、札幌での競技開催を歓迎するような意見もある。
理屈は、いずれにも、何とでもつく。
ただIOCが機関決定した以上、もはや札幌開催は不可避だろう。
そもそも東京都知事として、東京オリンピックの招致経緯を無視して、人気取りの手段をして利用したのは小池百合子だ。
小池は政局最優先で、IOCに相談することなく、会場を変更しようとしていた。
それが当時の竹田恆和や森喜朗の疑心暗鬼を生み、陰でJOCや大会組織委員会を中心とした、反小池連合が出来上がり、IOCへのロビー活動につながっていった。
せっかくマラソン観戦を楽しみにしていた東京都民や、チケット購入者にとっては、全く不本意な会場変更であり、納得できないだろう。
これだけの大きな変更に、責任者の都知事が全く気が付かない、あるいは都知事に一言の相談もないなど、常識的にはあり得ないことだからだ。
しかしそれが、現実に起きてしまった。
小池は、まさか東京都知事が無視されるなど思いもよらず、油断の極みだったので、途中で有効な反撃策を講じてこなかったのだ。
如何に小池が、関係各所から相手にされていなかったかの表れだ。
因果は巡る糸車。
ある日突然、小池によって諸悪の根源、ドン、黒幕に仕立て上げられた、石原慎太郎、内田茂、浜渦武生、森喜朗たちの無念さが、巡り巡って小池を足を引っ張る。
円滑な組織運営には、人徳と、他人、他部署への気配りが求められる。