中村哲医師、73歳
新聞のトップニュースになるくらいだから、この中村哲医師は著名人だったのだろうが、恥ずかしながら僕は、この人を知らなかった。
この中村医師が、アフガニスタンの武装グループに襲撃され、死亡したとのニュースを聞いて最初に、日本人の善意が通じない地域があり、日本人を敵視する連中がいることを再確認した。
アフガニスタンだけでなく、世界中に紛争地域があり、そこでは全く違った価値観を持つグループ間で、正当性を巡って争いが続いている。
ここには、絶対的な正義などありえない。
あるグループでは正義でも、他のグループでは邪悪と見做される。
日本人的な感覚では、アフガニスタンで中村医師が努力していたことは、アフガニスタン人の全てに喜ばれ、支持されるはずだと思い込む。
医師としてだけでなく、農業支援で灌漑設備を作り、アフガニスタンの荒れ地を緑地化する行為なら、敵も味方もなく、アフガニスタン人の全員が感謝するはずだ。
ところが現実は、この成果を諸手を挙げて喜ぶグループがいる反面、そのグループの敵対勢力には、「余計なことをしやがって」となってしまう。
アフガニスタン国民が暮らしやすくなることは、国民の不満に依拠している反体制派にとっては決して喜ばしい事態ではないからだ。
この中村医師については、2008年の会見で「アフガニスタンでは、日本の憲法九条が守ってくれるから絶対に大丈夫」と力説している。
憲法九条を持つ平和民族日本人は、アフガニスタンでは政府派、反政府派の両方から特別視される存在と、すっかり安心しきっているのだ。
死者を悪く言いたくはないが、僕は、中村医師がそんなに偉い人でも、その志がどれほど高邁でも、この考えは、還暦を超えた大人にしては、あまりにも幼稚過ぎると思う。
今の日本でも、これほどお花畑平和思想に凝固まっているのはごく少数だ。
如何な能天気野党でも、さすがに国防の重要さまで否定することはないし、丸腰で安全だとは思っていない。
よっぽど変人でもない限り、自衛隊の必要性は認めている。
中村医師が活躍したアフガニスタンは、40年以上も争いを繰り返してきた、現在の地球上でも最も危険な場所だ。
そんな危険な場所で働いているのに、「憲法九条が守ってくれるから安全」とは、さすがに危機意識がなさ過ぎる。
きっと、学問一筋で成績優秀、正義感に溢れた人生だったのだろう。
勿論、こんな善人を殺してしまった武装グループは、アフガニスタンだけでなく、平和の敵として、徹底的に殲滅しなければならない。
しかし悲しいかな、そのためには、この武装グループを追い込みだけの武力が必要だ。
それが国際社会の常識で、そこでは日本の平和憲法が機能することはない。
中村医師は、アフガニスタンでの使命を全うするためには、襲撃されても撃退できるだけの武力を準備しておく必要があった。
価値観が多様な国際社会には、どんな主張にも必ず反対意見が存在し、反対のためなら武力行使も辞さない勢力も跋扈している。
そんな環境で、単純に平和を願っても、敵対勢力には通用しない。