昨日12月14日、「百年に一人の歌手」とまで称されるテノール歌手、ファン・ディエゴ・フローレスの、13年ぶりになる日本公演を見に行った。
この言葉を額面通りに受け取れば、生涯に一人しか出会えないほどの天才だ。
午後6時半開場。
係員が「全席指定なので並ぶ必要はありません」とアナウンスしても、一刻も早く会場入りしたいファン心理で、6時ころから長蛇の列ができ始める。
会場のサントリーホールがおよそ八割の入りなのは、入場料が高いことが原因だろう。
しかしこれほどの歌手を、ライブで観ることができるチャンスはそうそうない。
我が家は、少々奮発して一番高い席を予約した。
7時公演開始。
クリストファー・フランクリン指揮、Tokyo 21C Philpharmonic管弦楽団の演奏で、ロッシーニ作曲のオペラ「チェネレントラ序曲」でコンサート開始。
聞いたことのない指揮者だが、全身を使っての大熱演が甲斐甲斐しい。
しかし管弦楽団のクオリティは、お世辞にもトップレベルとは言い難い。
マァ、前菜前の食前酒みたいなものと割り切れば、いい気分にさせてくれればOKだ。
続いて、万雷の拍手に迎えられて、主役フローレス登場。
二曲歌っては楽屋へ戻ることを繰り返し、途中15分の休憩をはさんで、予定されていた曲目を歌い上げた。
曲名
・ロッシーニ:歌曲「さらば、ウィーンの人々よ」
“Addio ai Viennesi” (Rossini)
・ロッシーニ:《老いの過ち》より「ボレロ(黙って嘆こう)」
“Bolero(Mi lagnerò tacendo)”, from Peches de Vieillesse (Rossini)
・ドニゼッティ:オペラ《ドン・パスクワーレ》より 序曲
Sinfonia from Don Pasquale (Donizetti)
・ドニゼッティ:オペラ《愛の妙薬》より「人知れぬ涙」
“Una furtiva lagrima”, from L’elisir d’amore (Donizetti)
・ドニゼッティ:オペラ《ランメルモールのルチア》より「わが祖先の墓よ……やがてこの世に別れを告げよう」
“Tombe degli avi miei… Fra poco a me ricovero”, from Lucia di Lammermoor (Donizetti)
・ヴェルディ:オペラ《ルイーザ・ミラー》より 序曲
Ouverture from Louisa Miller (Verdi)
・ヴェルディ:オペラ《第一次十字軍のロンバルディア人》より「私の喜びで彼女を包みたい」
“La mia letizia infondere” , from I Lombardi alla crociata (Verdi)
・ヴェルディ:オペラ《ラ・トラヴィアータ(椿姫)》より「あの人から遠く離れて…燃える心を…おお、なんたる恥辱」
“Lunge da lei… De’miei bollenti spiriti… O mio rimorso” , from La traviata (Verdi)
・レハール:オペレッタ《微笑みの国》より「君はわが心のすべて」
“Dein ist mein ganzes Herz”, from Das Land des Lächelns (Lehár)
・レハール:オペレッタ《パガニーニ》より「女性へのキスは喜んで」
“Gern hab’ich die Frau’n geküsst”, from Paganini (Lehár)
・レハール:オペレッタ《ジュディッタ》より「友よ、人生は活きる価値がある」
“Freunde, das Leben ist Lebenswert”, from Giuditta (Lehár)
・サンサーンス:オペラ《サムソンとデリラ》より バッカナール
Orchestral Bacchanale from Samson and Delilah (Saint Saens)
・マスネ:オペラ《マノン》より「消え去れ、やさしい面影よ」
“Ah fuyez, douce image” , from Manon (Massenet)
・グノー:オペラ《ファウスト》第3幕より「この清らかな住まい」
“Salut! demeure chaste et pure”, from Faust (Bizet)
・マスカーニ:オペラ《カヴァッレリア・ルスティカーナ》より 間奏曲
Intermezzo, from Cavalleria Rusticana (Mascagni)
・プッチーニ:オペラ《ラ・ボエーム》より「冷たい手を」
“Che gelida manina”, from Labohéme (Puccini)
特にフローレスがハイCを決めると、観客の興奮も最高になり、「ブラボー」の掛け声が飛び交う。
予定されていた演目を終了しても、観客は拍手を続け、何時までも帰らない。
お約束のアンコールは、フローレス得意のギター演奏付きでベサメムーチョから三曲。
それでも観客の拍手が続く。
今度は指揮者同伴で、一曲歌って退場。
またも拍手の嵐。
すると、主役フローレスは、ギター片手に再登場で、もう一曲サービスして退場。
観客は、まだまだ拍手を続ける。
今度は、またしても指揮者と一緒に登場して、最後の最後のアンコールを歌う。
二時間で終了するはずのコンサートだったが、サービス精神一杯のフローレスは、優に30分以上のアンコールに応じてくれた。
実は我々夫婦は、二年前にチェコ・プラハでフローレスのコンサートを見ている。
その時も感じたが、やはりドミンゴ、パヴァロッティと並んで、フローレスは今世紀最高のテノール歌手だ。
こんな天才歌手を間近で見たのは、大変幸福な時間だった。