WOWWOWで、懐かしい歌手のコンサート中継番組が、放送されることがある。
わざわざ現地に足を運ばなくても、僕の青春時代の大歌手のコンサートを見ることができるのはありがたい。
ごく最近では、高橋真梨子や吉田拓郎のコンサート風景が放送された。
コンサートでは二人とも、二時間近く歌いっ放しだ。
失礼ながら高橋真梨子は71歳。
吉田拓郎に至っては74歳。
遥か前に古希を超え、昔ならとっくに引退していても不思議ではない。
いくら芸能界に定年がないとは言え、70歳を過ぎて、昔の旅芸人さながらに、全国を回っている。
そのエネルギッシュな生き様は、何とも羨ましい限りだ。
持ち歌は、歌い込めば込むほど味が出る。
また表現力は、人生で苦労を重ねるほど豊かになるだろうから、年配の歌手が情感たっぷりに歌う姿には、魅力が溢れているのかもしれない。
しかし、何とも隠しようがないのは、容姿の衰えだ。
高橋真梨子のコンサートは、ほぼ毎年放映される。
そこでは間違いなく、年々歳々、高橋真梨子の容姿が衰えていて、しかもそれは加速度的に進んでいることを目の当たりにする。
往年の大歌手の、そんな姿を直視するのは、結構辛いものがある。
もっと深刻なのは、容貌同様、若しくはそれ以上のペースで声量が落ちていることだ。
これは、歌うことを生業とする職業では致命的だ。
吉田拓郎は、肺癌、咽喉癌三度の手術から、奇跡的に復活した。
嫁さんを三度も変えるほど、女性で苦労したが、健康面でも苦難の連続だった。
どうでもいいことだが、ガン手術後の吉田拓郎は、いつも変わらないズラを着用して、コンサートに臨んでいる。
その吉田拓郎の最新コンサート番組を見ると、眼光の鋭さがまるで消え去っている。
目尻が垂れ下がり、将に、年寄りそのものの顔だ。
二人の大歌手は、ほぼ僕と同世代だ。
今でもファンがいて、コンサートの需要があるから、全国でコンサートを開き、それなりに多くのファンが詰めかける。
全く羨ましい存在だが、逆にこれは、自らの衰えも世間に晒すことにもなる。
それこそが、彼らの人生!
老いることに、何の恥ずかしさがあるか!
自分の歌を聞いてくれる、楽しみにしているファンがいる限り、歌い続ける!
二人からは、そんなメッセージが発されているとも思える。
しかし僕は、この二人の大歌手が、「ファンはあなたを待っている」みたいな興行師の巧言に乗せられて、老骨に鞭打って稼ぎに出ているのではないかと疑ってしまう。
日本人の中には、頑張る年寄りを称賛する傾向が強い。
確かに、自分の職業に誇りを持ち、何歳になっても現場にしがみ付く姿は、神々しく見えるかもしれない。
しかし人間には、頃合い、潮時がある。
僕は、正直に言えば、自分の顔を鏡で見ることが嫌だ。
功成り名を遂げ、世間に名前を顔も売れた二人に比べ、全く知名度ゼロの僕でも、自らの衰えを直視する気持ちにはなれない、
昔の溌剌としたイメージを残しながら、第一戦から消えていくのも立派なプロ意識だ。
と僕は、自分のリタイアを美化して考えている。