退屈歴史講座の第三弾は、
講座 スペイン内戦について
副題 人民戦線の敗戦から、何を学ぶか?
世間には、「正義は必ず勝つ」との迷信がある。
しかし、そうではない。
正義が勝つのではなく、勝った方が正義なのだ。
勝者は、自分たちに都合のいいように歴史を作り、諸々の問題点は、全てが敗者の責任にされる。
敗者の言い訳など聞く耳を持たず、勝者に都合の悪い部分は歴史の中から抹殺される。
だから後世から見れば、正義が勝ち残り、悪が滅びたように勘違いされる。
しかし世界史を見ると、こんな簡潔な理屈では説明できないことも起きる。
しかもそれは、そんなに古い出来事ではない。
余り歴史に興味がない人でも、スペイン内戦の顛末を聞いたことはあるだろう。
スペインで、フランコ将軍を中心とした軍部と、アナーキーと共産党を中心とした人民戦線とが衝突した事件だ。
軍部へはドイツナチスとイタリアファシストが支援し、人民戦線にはソ連が支援した、ファシスト勢力対反ファシスト勢力の争いと見られた。
そこでは、評判の悪いファシズムに立ち向かう、健気な人民戦線のイメージがあり、国際的な人気は圧倒的に人民戦線側にあった。
アメリカのアーネスト・ヘミングウェイ、フランスのアンドレ・マルロー、イギリスのジョージ・オーウェルなど、多士済々の名だたる文学者が、国際義勇軍に参戦した。
当時ヨーロッパでのファシズム台頭を警戒していた西欧諸国も、当たり前に人民戦線側につくはずだし、ファシストのフランコ軍が勝つなんてあり得ないはずだ。
ところがそうはならないのが、国際社会のややこしさだ。
フランスは、下手に人民戦線を支援すると、自国植民地の独立運動に火が付く恐れがあるので、「積極的に不干渉」を決め込む。
民主主義を守るはずのアメリカは、共産主義は支援できないから、ファシスト政権に物資を売ることで、間接的にフランコ側を支援した。
そして共産主義の総本山、絶対的スポンサーで強固な人民戦線支援国だったはずのソ連でさえ、ナチスドイツとの裏取引で、支援を止めてしまった。
要はスペインの内戦など、所詮はよその国の出来事で、共産主義の理念とか、自由と民主主義を守るとかのお題目は、絵空事でしかないのだ。
その後発生した第二次世界大戦では、連合国はコミンテルンのソ連とも共闘して、ドイツ・イタリア・日本の枢軸三国と戦争した。
それなら何故スペイン内戦では、連合国は人民戦線を見殺しにしたのか、全く説明がつかない。
それはどの国も、自分の都合だけを考えているに過ぎないからだ。
更に人民戦線側には、共産党のお家芸、内部分裂による弱体化が重なった。
共産党対アナーキー、共産党内部の路線闘争が激しくなり、その都度内部抗争に負けた側は戦線から離脱するので、戦闘能力が衰えてしまう。
尤もこの内部対立は、共産主義では必然の結末なので、本来なら人民戦線側が織り込んでおかねばならないことではある。
いずれにしてもその結果、正義のはずの人民戦線は、ファシストに負けてしまった。
スペイン内戦では、悪役のフランコ率いるファシスト政党ファランヘが勝利し、その後、フランコが死亡した1975年まで独裁体制が続いたのだ。
因みに、スペインだけでなく世界中のサッカーファンが熱狂する「クラシコ」は、レアル・マドリード対バルセロナが激突する大試合だが、フランコ贔屓のレアル・マドリードと、それに対抗したカタルーニャのバルセロナの因縁試合の部分も強く残っている。
フランコは老獪な政治家で、第二次世界大戦では中立を宣言し、フランコ政権成立を支援したナチスやファシストと表面的には距離を置き、政権を維持した。
フランコの死で、スペインは民主化が進んだが、フランコは、ファシストの独裁者でありながら天寿を全うした珍しい政治家だ。
世界の歴史教育は、
・人民戦線は、悪のファシズムと戦っているから正義だ
・正義は必ず勝つ
の論理建てだが、三段論法が通用するのなら、スペイン人民戦線が負けるはずはない。
小局面で人民戦線が負けていても、最後は必ずファシズムは敗北しなければならない。
と、そうなるはずが、スペインでは全く逆の展開になったのだ。
スペイン内戦では、ファシズム側が勝った。
正義が必ず勝つのなら、ファシズムが正義なのか否かが判断できなくなってしまう。
スペインのファシズムは正義で、ドイツとイタリアは間違いなどは論理破綻だ。
人民戦線の敗因は、国際社会からの支援が得られなかったことと内部対立の激化だ。
本来なら支援国のはずの西欧諸国も、全く自己都合しか考慮しない。
共産主義のはずのソ連も、実は赤色帝国主義なので、大義名分よりも自国利益優先だ、
国際社会は、冷酷でウソつきばかりが跳梁跋扈している。
今に至っても尚、世界中に人民戦線ファンはいる。
高邁な理念の下に集い、結果としては孤立無援で敗北した人民戦線に、敗者の美学を感じる人たちが多いからだ。
小説やテレビドラマでは、最後には悪は滅びることになっているが、世界史では必ずしもそうではなく、ロマンティックなエピソードは後付けの屁理屈ばかりだ。
各国の利害が優先され、共産主義者もファシストですら、簡単に権力を手にする。
一寸過ぎは闇の世界で、誰が味方で誰が敵かすら分からない。
だから、どんなに仲が良い積りでも、自国の防衛を他国に頼るのは間違いだ。
今の日本はアメリカに国防を委ねているが、アメリカが日本を守るのは、日本の事を考えたり、日本が大好きだったり、日米安保条約があるからではない。
アメリカの利益に叶っているから日本防衛に出動するだけであり、もしもアメリカにとって意味がなくなれば、その瞬間にアッサリと日本を見捨てる。
これが国際社会の歴史であり、且つ常識だ。
スペイン内戦と人民戦線の敗北は、他国頼みの国策の危うさを教えている。
いわんや、「憲法九条が日本を守る」だと!
平和ボケした寝言は、寝た後も言うな!だ。