アメリカのポンペオ長官が「自由社会は連帯して、習近平と中国共産党の全体主義に勝たなければならない」と「中国共産党との戦い」を宣言し、大ニュースになった。
米中の争いが、関税の掛け合いだった経済戦争から一歩踏み出し、いよいよ引きに引かれぬ正面衝突段階に入ったと危惧されたからだ。
ただ、このポンペオ演説を注意深く聞くと、アメリカが決して中国の全てを敵視したものではないことに気が付く。
ポンペオは「敵は習近平と中国共産党で、中国人民はむしろ共産党支配の被害者」とのニュアンスで発言しているからだ。
そしてこの、「悪いのは独裁体制で、その国民は被害者」のフレーズは、敵国政府への国民からの支持を失わせ、孤立させる目的で度々利用される。
アメリカの対中作戦は、中国国内を撹乱させ内部崩壊を狙うモノだ。
ポンペオ演説は、北朝鮮国民を動揺させるために、韓国の脱北者団体が金正恩の悪口を書いた風船ビラを飛ばすのと、基本的には同じことだ。
しかし、アメリカのこの作戦は、まず成功しないだろう。
何故なら中国人は、アメリカが期待するような民族性を持っていないからだ。
中国歴史ドラマを見ていると、中国人独特のメンタリティが良く分かる。
中国は四千年、秦の始皇帝以降でも二千年以上に亘って、皇帝が全中国領土と中国人を統治してきた国なので、その中国には絶対に民主主義は定着しないのだ。
中国人にとっては、皇帝の存在こそが全てだ。
国がどんなに苦境に見舞われても、皇帝さえ生き続ければ、その国は再興できる。
だから中国人は、バカでもチョンでも暴君でも、時の皇帝様を敬い続ける。
大事な皇帝の命を守るためには、下々の犠牲は全く厭わない。
中国では、そんな国民性がDNAレベルで定着している。
そしてここが最大の問題点なのだが、共産主義と中国国民性の相性は極めて良いのだ。
四の五の理想論を並べ立てているが、共産主義を標榜した国家の実態は、例外なく全てが一党独裁であり、しかも唯一無二、絶対無謬の指導者が独裁者になってきた。
将に、そんな共産主義の統治体制は、歴代中国王朝そのものだ。
中国共産党は、現代中国の征服王朝であり、習近平は現王朝の皇帝なのだ。
中国の歴代王朝は、覇権を握った後は必ず腐敗堕落し、次の王朝にとってかわられた。
全中国を平定した英雄皇帝一族も、代を重ねるごとに人品骨柄も能力も劣化し、途中からどうにもならないような無能皇帝が続くようになる。
優秀な官僚ほど必ず横領や不正蓄財し、それが体制崩壊を促進するのも決まり事だ。
そんな中国の歴史は、共産党王朝建国後わずか70年の現在も繰り返されている。
皇帝の劣化や不正官僚の跋扈は、将に中国共産党の現状であり、未来図でもある。
では、打倒された中国共産党の次にくる王朝は、一体何者なのか?
中国人自身も含めて、世界中を探してもその答えを知る人はいないが、ただ「これだけは言える」ことがある。
それは、次の征服王朝は、アメリカや世界が期待する民主主義体制ではないことだ。
全員参加で、投票で物事を決める民主主義など、中国人にはありえない。
過去に一度たりとも経験したこともないし、そんな体制を望みもしない。
中国人は、たった一人の皇帝に支配されることが一番心地よいのだ。
だからアメリカが、中国人と中国共産党を分離して、中国共産党を壊滅に追い込んでも、中国人が次に選ぶ政治体制は民主主義ではない。
天安門に集まった改革派学生たちは、確かに民主的選挙の実施を求めたし、その運動が盛り上がったように見えたが、鎮圧された後は、中国人の関心から消えてしまった。
香港の民主派は普通選挙を求めているが、そのためには150年以上のイギリスによる統治と教育の積み重ねが必要だ。
そんな中国なので、次に誰が、あるいはどんな組織が覇者になるのか分からないが、しかしそれは、中国共産党同様の個人独裁体制しかありえない。
それが中国であり、中国人だ。
中国に民主主義は定着しない。