12月27日21時放送のNHKスペシャル「謎の感染拡大 新型ウィルスの起源を追う」を見た人は多いはずだ。
ただ最後の纏めが「人類と未知なる敵との戦いが始まった」では、何故このタイミングで、NHKがこの番組を放送したのか分からない。
武漢肺炎に関しての著作には、今年度のベストセラーになった門田隆祥の「疫病2020」がある。
NHKの放送と、門田の著書を併せ見ると、武漢肺炎の発生原因や経路について、NHK放送では消化不良の部分が滲み出てくる。
NHKがこの放送に踏み切った背景については、
・今回の新型肺炎は、中国だけでなく世界が無知だった
・中国では情報統制が厳しく、武漢市封鎖が遅れた
・その結果、初動対策に失敗し、世界に蔓延することとなった
・国家間の思惑が錯綜し、真相究明が進まなかった
・来年1月WHOの武漢市現地調査での真相究明が待たれる
と、一見すると中国を批判しているが、当時の知識ではやむを得なかったと擁護しているように見られた。
NHKによると、
・武漢市で大問題になるのは、11月に72人が発症してから
・それが12月には、患者数1518人に急拡大した
・1月3日、中国が事態をWHOに報告
・1月14日、WHOが新型ウィルスを確認
・1月30日、WHO緊急事態を発表
の流れだが、当初は中国もWHOも、人人感染はないと思っていたために対策が後手に回ったと解説している。
しかも実は、このウィルスは、
・当初は、武漢市海鮮市場のコウモリ売買が疑われた
・しかしそこは、単なる初期クラスターの場所
・雲南省のコウモリ由来ウィルスが大都市に拡散した理由は不明
・ここから国家間の思惑が錯綜する
・中国は9月の世界軍人競技会参加の米国軍人が原因と発表
ところがNHKによると、武漢クラスターより前に、イタリアとフランスでは既に、武漢肺炎と思われる患者が発見されていたらしい。
保管された下水サンプルから、イタリアでは9月28日には患者が発生し、11月末までには人人感染していた可能性があるし、WHOもこの考えを支持していると言う。
即ち、雲南省起源のウィルスが、武漢クラスター以前に世界中に伝搬していたが、誰もそれに気が付かなかったと言うのだ。
NHK説では「欧州では武漢以前に、誰も知らないうちに雲南か浙江発ウィルスに感染していた」ことになる。
これは、
・中国の情報統制や秘密主義も悪いが
・しかしそれだけでは、パンデミックの説明にはならない
ことを意味する。
続けて、今こそ
・「ウィルスはどこで発生」し
・「どのように拡散」したのか
・初期対応を徹底的に検証するべきだ
・そのためのWHOの現地調査が、重要になる
と結論づけたいようなのだ。
しかしNHKが全く触れなかったが、実は最も深刻な問題点は、
・雲南省のコウモリで発生したウィルスが、
・何故武漢市で、大爆発的感染を引き起こしたか
なのだ。
門田隆祥は、2020年2月6日に発表された、中国・華南理工大学肖波涛教授の論文に注目する。
この教授は
・新柄ウィルスはキクガシラコウモリと遺伝子配列は類似
・但しこのウィルスが900㎞離れた武漢に飛来することは不可能
・コウモリは市民の食用ではなく、海鮮市場で扱われていない
・武漢市疾病予防管理センターは湖北省、浙江省でコウモリを捕獲
・その数は二年間で、湖北から155匹、浙江から450匹
・DNAとRNA配列を研究していた
・そのゴミがウィルスの温床になった可能性がある
・他にも、武漢病毒研究所も同様の検査をしている
ことから新型コロナウィルスが、キクガシラコウモリから中間宿主経由で人に感染した可能性よりも、この二つの研究所から流出した可能性が高いと考え、この論文を発表した。
この論文は、世界中で大反響を引き起こしたが、わずか6時間で削除され、肖波涛教授は消息不明となってしまった。
その二か月後に、取材に対してメール返信が届いたことになっているが、本人からと確認されたわけもなく「論文は証拠があってのモノではない」と、予想通りの回答内容だったらしい。
門田は、中国が徹底的に情報統制し、必死に世界の眼を武漢から逸らそうとしたのは、この二つの研究所の存在を隠し通したかったからと見ているが、これは先のアメリカ・ポンペオ長官発言と同じだ。
NHKは、アメリカが武漢研究所を疑ったことは放送したが、それは中国の荒唐無稽なアメリカ軍人犯人説への対案扱いだった。
しかもアメリカの軍人は、結局はマラリア罹患だったのオチ付きだ。
この場合、中国の主張が滑稽であればあるほど、アメリカの証言も信用できないものと映ってしまう。
しかも、放送中に自慢タラタラだったNHK独自開発プログラム「論文ビッグデータ」で調べ上げた、膨大な論文やウェイボー情報の中で、何故か肖波涛教授の論文には一言も触れない。
コロナウィルスの起源を論じているのに、この重要情報を素通りするのは、NHKに政治的思惑があるとしか思えない。
NHKは年明けの、WHOの武漢市現地調査に期待を寄せていた。
しかし今年一年間の、武漢肺炎と中国に対する、一連のWHOの態度は、お世辞にも客観的だったとは言えない。
むしろ中国の代弁者としか思えない発言を繰り返すので、業を煮やしたアメリカはWHOを脱退してしまったほどだ。
このタイミングで、武漢パンデミック以前にウィルスが世界に拡散していたとアピールするのも、武漢での封じ込めに失敗した中国への側面援助とも思われる。
更に、1月WHOの調査報告を以て、中国の罪一等を減じる目論見があるのではと疑ってしまう。
誰が何と言おうと、中国は武漢市を発生源とした新型コロナウィルスを世界中にばらまき、大災厄を引き起こした。
厳しく中国政府の責任を追及することはあっても、断じて甘っちょろい結末に終わらせてはいけない世界的事件だ。
今回のNHKの番組は、そんな世界の怒りが、中国に向かわないように、密かに情報操作していると思われてならない。