正月2日、3日は、箱根駅伝の中継があるので退屈しない。
往復215㎞の距離を、10人のタスキでつなぐ競技なので、連帯することを重視する日本人好みのスポーツだ。
尤も当然ながら、大半の外国人には理解されない。
知り合いのドイツ人は、駅伝はおろか2時間強で勝負が決まるマラソンにも興味がない。
聞けば「これほど退屈なスポーツはない」かららしい。
確かに彼らが熱中する、サッカーやラグビーに比べると変化が少ない。
スタート後しばらくは全員が集団で走り、そのうちに先頭集団が形成され、そのうちに数人が抜け出す。
終盤に、誰かがライバルを振り切り、そのままゴールに飛び込む。
マラソンも駅伝も、似たようなプロセスを繰り返すだけだが、まれに後ろから追いついたり、快調だった選手が突如ブレーキになる。
すると中継アナが、天変地異が発生したかの如く大騒ぎする。
レース中の、数少ないそんな変化が楽しみで、ひたすらテレビを見続けるのだが、派手好きな外国人には受けないのも已む無しだ。
箱根駅伝に関して言えば、この大会は関東学生陸上競技連盟が主催する、単なる地域大会に過ぎない。
出場可能な大学は、関東在住校に限られている。
しかし長い歴史と伝統があり、且つ正月行事として定着しているし、何よりも国民的大人気大会だ。
高校球児が甲子園を目指すのと同様に、有力高校生ランナーは、箱根駅伝出場を夢見て関東の大学に進む。
だからこの箱根駅伝の人気がある限り、日本の学生長距離トップランナーが関東に集結する一極化現象が際立ち続け、関東以外の大学とは、力の差はどんどん大きくなる。
全国レベルで長距離ランナーを育成しようとするのなら、箱根駅伝の運営そのものを見直さないといけなくなる。
しかしそうすると、今度は関東の大学にとっては、出場チャンスが減るので、当然ながら猛反対する。
既得権益を享受している連中がいると改革が進まないのは、どこの世界でも一緒だ。
もう一つの問題点に、有力選手が有名大学に集中することがある。
箱根駅伝の場合、いつも優勝争いをする大学は限られている。
これらの大学に所属する選手たちは、大学のクラブ活動で陸上を走っているのではない。
全員が、大学の名声を高めるために雇われた、プロランナーたちだ。
彼らは全員、授業料も学校の授業も免除され、食事と宿舎完備の合宿所に住み、ひらすら駅伝大会のための練習に明け暮れる。
そんな中で特別に選ばれた選手だけが、大会に出場し有名になり、今度は社会人チームのランナーとして有名企業に就職する。
箱根駅伝の有力校にとっては、才能溢れた高校生をどれだけリクルートできるのかが、最大の勝負どころだ。
その反面、箱根駅伝に出場する大学には、超一流ではないが準有力大学も多くある。
その中には、少子化社会で学生の認知度を上げるために、箱根駅伝を「学校興し」として露骨に利用する大学もある。
この大学には、超一流有力大学ではレギュラーになれない、有力二番手ランナーが集まる。
これらの大学は、端から優勝争いなど考えてもいない。
あくまで、翌年度のシード建がかかる10位以内を目指すのが戦略であり、そのためのゲーム戦術が駆使される。
とにかくテレビに映り、大学の名前を売ってくれれば目的達成だ。
ある意味で棲み分けが出来ているので、箱根駅伝を見る側も、
・超有力大学の優勝争い
・二番手大学グループのシード権争い
に分けると「一粒で二度おいしい」箱根駅伝の楽しみ方を味わえる。
今年の箱根駅伝は、青山、駒澤、東海の優勝争いが予想されていたが、往路を制したのは、何と創価大学だった。
大本命の青山学院が往路で大コケた所為もあるが、創価大には大した有名選手がいるわけではない。
その意味では、ここ数年来で一番の大番狂わせだった。
この創価大学は、学生全員が学会員とも限らない。
現に僕の後輩は、創価学会員ではないが、この大学を卒業している。
しかしそうは言っても、池田大作会長が開設した大学だから、当たり前に創価学会員が多い。
そんな大学が優勝すると、嫌みの一つも言いたい人たちが出てくる。
ただ、同時期に開催された大学ラグビー戦では、天理大学が明治大学を破って決勝に進出した。
当方もその一人だが、創価大学の往路優勝に何となく納得できない人は、天理大学にも厳しい視線を向けなければならなくなる。
そう言えば、最後の10区で大逆転した駒澤大学もまた仏教大学だ。
仏様のご加護で、創価大学や駒澤大学に優秀な選手が集まり、その選手が他より速く走れるのなら、それもまた神様仏様の思し召しだ。
もう一つのトピックに、東京国際大学の存在がある。
二年連続でシード権を獲得したが、元々箱根駅伝に出場するまでは、場所はおろか名前すら知らなかった。
この大学は、東京を名乗っているが、所在地は埼玉県川越市。
ケニアからビンセント・イエゴンを留学生として迎えているので、国際大学と大風呂敷を広げているのかもしれない。
このビンセントが「箱根駅伝華の二区」を走り、区間記録を出したのが、結果としてシード権確保につながった。
華の二区には、各大学のエースランナーが揃う。
その中でケニアの留学生が、断トツの快走を見せた。
しかしビンセント選手は、ケニアのトップランナーではあるまい。
いずれはビンセント選手や、もっと有力なケニア選手たちが、国際舞台で日本選手の前に立ちはだかること必至だ。
昔はオリンピックでもメダルの期待があったが、しかし今や、日本のトップ選手を以てしても、国際舞台での優勝など夢のまた夢だ。
外国人留学生の強さが際立つ箱根駅伝を見ると、日本長距離陸上が国際的に通用する日が遠いことを痛感してしまう。
今年もまた、面白いような、もの悲しいような箱根駅伝だった。