僕は今を去ること六年ほど前、半年ほどモルモン教の教会に通ったことがある。
但し、常に「熱心な無宗教徒であり、且つ敬虔な無神論者」の僕なので、キリスト教に興味があったからではない。
リタイア後、年金暮らしの身には、この協会がボランティアでやっていた、無料の英会話教室が魅力的だったからだ。
ベラベラ英語使いになるにはもっと続けるべきだったが、そこに集まってくる生徒に胡散臭い奴らが多かったことに嫌気がさした。
更には、講座終了後に必ず「アーメン!」と、信じてもいない神様に感謝の祈りを捧げることも、神道系無宗教徒には耐えがたかった。
やはり、タダで学ぶことができる環境は、ロクなものではない。
ただ、教師役の若人宣教師たちは、全員が実に爽やかで感じ良かった。
この若者たち全員が、ユタ州のモルモン教総本山が派遣した、宣教師か、宣教師見習いだ。
テレビで見た薄汚いオウム真理教信者のイメージとは違い、悉く礼儀正しく、且つ服装もキチンとしていた。
昼間の彼らは、基本的に街頭にも出かけ、呼び込みやポン引きと同様に、若者に声をかけ、モルモン教会に誘う。
呼び込み、ポン引きとの違いは、彼らの服装がほぼ背広姿の正装に近く、且つ必ず二人組なことだ。
「神様を信じますかァ?」と、たどたどしい日本語で話しかける。
ただ、見知らぬ外国人には警戒心の強い日本人は、そんな呼びかけにホイホイとついていくことは少ない。
モルモン教の若者にとっての路上勧誘は、早く日本に慣れると同時に、クソ度胸を身につける訓練だったようだ。
ケント・ギルバードは、そんなモルモン教の宣教師として、日本に来日している。
当初の二年間は、北九州市小倉で布教活動をしていたらしい。
宣教師としての任務終了後に一旦帰国したが、日本に好意を持っていたケント氏は、三年後に 経営コンサルタントとして再来日した。
しかし本業の方はパッとせず、むしろテレビ出演で人気者になった。
その後はテレビタレント業より、保守派論客として活躍している。
今回のアメリカ大統領選挙では、投票結果が判明するまでのケント氏は、熱心なトランプと共和党支持者だった。
しかし4年前の選挙では、息子の説得で最終的にはトランプに投票したものの、直前までトランプには批判的だったらしい。
今回はアメリカの選挙情勢分析の上、自信たっぷりでトランプ勝利を予想していたが、結果はバイデンが圧勝した。
ケント氏と多くのトランプ支持者との間に、意見の相違が出たのは、この選挙結果の解釈を巡ってだ。
大半のトランプ支持者は、今回の大統領選には大規模な不正があったと主張した。
しかしケント氏は、アメリカ憲法を順守する弁護士としての見解から、バイデン勝利を認めた。
法律家ケント氏の見方は「トランプが告訴すれば、ペンシルバニア州だけは勝ち目があるが、その他の州では無理」だったが、現実はそのペンシルベニア州でもトランプは敗訴した。
ここからケント氏は、トランプ支持者が多くが盲信している、バイデン陣営による組織的大規模不正選挙はなかったと断言した。
まさしく結果は、ケント氏の言葉通りの展開になったが、ケント氏はその代償として、トランプ派から裏切者扱いされ非難された。
しかし数多のYouTuberたちが、まるで無内容なトランプ逆転を夢想していた時に、孤立を恐れず正論を吐き続けたケント氏は、今思い返しても一番信頼に足る人物だった。
ケント氏はまた、日本の再武装・自主防衛や憲法改正を力説する。
韓国の言う慰安婦や応募工賠償や、中国の南京虐殺事件の欺瞞性も指摘し、中韓両国は嘘ツキだと痛烈に批判している。
単なるモルモン教宣教師に過ぎなかったケント氏は、一体どのような経緯で親日外国人になったのか?
元々のケント氏は、今ほどの右寄り体質の保守ではなかったらしい。
しかし長らく日本に住む間に、日本の素晴らしさや、日本人のやさしさを実感し、日本の大ファンに変わっていったようだ。
更に、朝日新聞の慰安婦問題の捏造記事が明らかになった時点で、反日の韓国、中国とは決別したと言う。
いずれにしても、ケント氏のような冷静沈着な意見の持ち主が、日本のために体を張った論陣を展開してくれることはありがたい。
今回のアメリカ大統領選では、保守派の中にも陰謀論や、証拠もないまま自説に拘る連中の存在が明らかになった。
そんな保守派の中で、ケント氏の意見やケント・チャンネルで発信される情報が、最も信頼性が高かったことは紛れもない事実だ。
今の僕は、ケント・チャンネルに熱心な視聴者だ。
そして僕の英会話教師だったモルモン教宣教師の若者の中から、一人でもケント氏に次ぐ人物が現れたら、生徒冥利に尽きるモノだ。