「親の小言と茄子の花は、千に一つも仇(無駄)はない」
「親の言うことをよく聞け」との格言、箴言だ。
確かにこの歳まで生きると、この言葉の意味の深さを痛感する。
「あの時親父はこう言った」とか、お袋から叱られた時のことを思い出したりするからだ。
何かと小うるさい両親だったが、全ては子供を思ってのことだった。
自分が味わった苦労や無念さを、子供には経験させたくない気持ちだったのだろう。
「子を持って知る親の恩」
そんなことに思いが至ると、改めて両親や家族に感謝の気持ちだ。
これと同じことが、会社の先輩たちの教えにも言える。
先輩諸氏は、伊達や酔狂で、仕事の苦労をしてはいない。
しかも、彼らが経験的に学んだ事例や教訓は、仕事だけでなく、間違いなく人生哲学にもなりうる。
そんな中でも、
「自分が嫌だったことは、他人にしてはいけない」
は、実に印象に残った言葉だった。
同じ会社の同じ組織に所属する会社員なら、全員が企業利益の最大化を目指す運命共同体のはずだ。
しかしその人数が多ければ多いほど、様々なキャラの持ち主がいる。
目的は同じでも、そこに至る方法も、考え方も違うことがある。
同じような考えで馬が合うとか、親近感を覚えると仲良くなるが、逆の場合は、さしたる理由もなく疎遠な関係になる。
しかし職場は、仲良しクラブではない。
会社の命令一つで、反りが合わない人とでも、否応なくチームと組まされることがある。
一般論だが、そんな緊張関係がある方が、お互いの刺激になって仕事の成果を上がることもあると言われる。
しかしそれが思いもかけないシナジー効果となるのは、同資格の同僚との場合に限られ、上下関係の場合は悲劇しかない。
上司の場合、尊敬に値する人品骨柄の人物がいることもある。
しかしそれ以上の確率で、意地悪で鼻持ちならない人もいる。
僕の経験で言えば、普通の会社員の場合は、上司に恵まれたと言える職場の連続年数は、三年間が上限だ。
その後は、またもストレスフルな職場環境に戻ってしまうと、腹を括っている方が無難だ。
そんな職場で、ドンくさいヤツは、基本的に上司から煙たがられる。
そんなヤツに、上司にすればば教育的指導を施している積りでも、傍からはイジメに見えてしまうことがある。
そんなことが日常化すると、当のドンくさい本人が委縮するだけでなく、周囲も気を遣うので、職場環境が悪くなる。
仕事ぶりが不満だから、教え諭していると分かれば理解できる。
だが、いわゆる肌が合わないだけの理由で、意地悪をされたら、本人も周囲も、たまったものではない。
これはどう考えても、パワハラだ。
最近は「パワハラされた」と訴え出ればすぐに社会問題となり、労働基準局から改善命令が出る。
これでパワハラを止めさせることはできるが、その場合は、継続して同じ職場で働くことがなかなか難しい。
会社員がパワハラを訴え出るのは、決して低いハードルではない。
やはり上司が「パワハラは絶対にしない」との意識改革が必要だ。
自分が嫌な経験をしてきたのに、上司になった時、後輩に思いが至らない人がいる。
こんなことを諫めるのが、先に先輩から聞いた「自分が嫌だったことは、他人にしてはいけない」との教えだ。
これが出来れば、自分の負の経験が、組織的にはプラスに転化されたことになる。
今話題のYouTube「貴闘力チャンネル」で、相撲部屋の先輩、後輩のしきたりやイジメを紹介している。
面白かったのは、先代貴乃花の藤島部屋では、親方の息子の若貴(勝と光司)が入門した時に、付き人制度を止めたことだ。
その理由は「今の時代、自分のことは自分でやるべき」との、相撲部屋改革の端緒となる美談になっていたらしい。
しかしその実態は、先代貴乃花は、息子二人が先輩力士の付き人として、牛馬のようにこき使われるのも良しとしなかったに過ぎない。
当然先輩力士からは、不満が噴出する。
しかし貴闘力は、結果的に自分のことは自分でやる習慣が身に付き、その後の社会人生活に役立ったとの見解だ。
ここまではとってもいいハナシ、なのだが……
何と先代貴乃花は、息子が十両に上がり関取になったら、付け人制度を復活させたらしいのだ。
貴闘力は、引退後の若貴が何かとトラブルをhき起こすのも、この先代貴乃花の親心が逆効果だったと見ている。
兄弟とも、他の力士が味わった苦労をせずに、ヌクヌクと育ったことがトラブルの遠因だと解説していた。
これは、自分が嫌な思いをすることが、マイナスだけではなく、プラス面もあることを表している。
苦労が、人格を磨くことがあるからだ。
いつも思うことだが、苦労などしない方が良いに決まっている。
しかし、そんな自分が嫌だった苦労で、却って人へのやさしさを覚えることもある。
先輩の言う「自分が嫌だったことは後輩にするな」は、自分の人格を磨く言葉と同時に、組織を活性化させる教えでもある。