二人の政治家とも、典型的な老害として扱われる。
世間的な評判が、甚だよろしくないのも共通項だ。
森喜朗は、度々舌禍事件を起こし、とうとう開幕わずか五か月前に五輪組織委員会会長を辞任した。
それまでは、IOCを始めとする腐りきった海外組織だけでなく、やたらと自己主張が強い国内の各競技団体をまとめることができるのは森喜朗しかいないと、余人を以て代えがたい人物を見られていた。
会長退任後も、権利意識が強い団体を調整できるのは、実は森喜朗以外にいないとの意見もある。
二階俊博は、自民党幹事長として菅義偉政権成立の立役者と言われるが、親中親韓議員の親玉なので、与党支持者からの反発が強い。
更に、自民党議員のスキャンダル事件は、その大半が二階派所属議員なので、二階派は自民党派閥のゴミ捨て場とも揶揄される。
それでもセッセと派閥拡大に勤しみ、他派閥と軋轢を繰り返す。
82歳で耄碌ぶりが進展しているとも言われるが、幹事長権力にしがみつく執念が強い。
まさしく、毀誉褒貶が激しい政治家の典型だ、
二階は、引退後に長男に地盤を継がせたい意向らしいが、この長男の出来が頗る悪い。
単に悪いと言うより、選挙に出馬しても、当選する可能性が全くないほど、非常に、ひどく、話にならないレベルで悪いらしい。
しかも和歌山選挙区では、参議院議員の世耕弘成が、衆議院への鞍替えを検討中と聞こえてくる。
何せ和歌山県御坊市の市長選でさえ、対立候補に大差敗北する不出来の塊のような二階の息子だ。
衆議院選挙を戦えば、議員として鋭さを垣間見せる世耕に勝てる見込みは、限りなくゼロでしかない。
そんな内部事情から二階は老醜を晒しても、国会議員にしがみつく。
政界ツバメは、そんな情勢分析をしている。
自民党に睨みが効くはずの二階には、もう一つ頭の痛い問題がある。
日韓議連の子分、山口三区の河村建夫の議員人生がピンチなのだ。
岸田派所属の参議院議員、林芳正が衆議院への鞍替えのため、河村の選挙区から出馬するべく準備中だ。
こちらも全国的知名度、地元の評価を見ても、河村に勝ち目はない。
二階としては、子分を守るために林の自民党除名や、林を応援する議員への処罰をちらつかせているが、林は強行突破の姿勢を崩さない。
静岡五区はこの逆で、岸田派の吉川赳と野党代表の細野豪志が争い、いつも細野が勝っていた。
ところがその細野が野党内で行き場所がなくなり、自民党入党のために二階派預かりの身となっている。
真面な自民党員にとって、それまで自民党の足を引っ張ってばかりだった細野など受け入れることはできない。
しかし二階は、選挙で勝った方を自民党公認にすると公言して、次派拡大に余念がない。
山口と静岡で、全く相矛盾したことをやっても恥じ入る様子もない。
二階の厚かましさは、やはり政治家の中でも抜きんでている。
僕はこの二階の兄弟と、一緒に仕事をしていた時期がある。
多分兄貴の方だと思うが、会社こそ違うものの、ある分野で拡販を目指すパートナーとして強い協力関係の間柄だった。
なかなかの人物だったので頼りにしていたが、ある日突然会社を辞めると知らされ、理由を聞くと「身内が田中派から選挙に出るので、手伝わないといけない」と答えた。
その選挙で晴れて衆議院議員となったのが、今を時めく二階俊博だ。
その後の二階は、自民党を離党したり復帰したり、かなり波乱万丈の議員人生を送り、次第に実力をつけ、今やキングメーカーまでに立身出世した。
二階が偉くなる過程で、僕と一緒に仕事をしていた人物の選挙区での力も強くなったようで、それに比例して態度もデカくなったと聞く。
「二階のアキレス腱の一つ」との悪評も聞こえてきた。
権力は人を腐らせるもので、あんなにイイ人だったのに「実るほど首を垂れる稲穂かな」の実践は難しい。
二階の力の源泉は、官僚の使い方と派閥調整能力だ。
何かトラブルがあれば、二階独自の嗅覚で解決策を見つけるらしい。
派閥内の面倒見の良さも抜群で、若手議員にも慕われているようだ。
そんな旧態依然とした政治家が少なくなったことで、二階の希少価値が上がっていることが皮肉だ。
そしてこの姿は、東京五輪における「胡散臭いが、頼りになる」森喜朗の役割と全くダブる。
二人共老害扱いされるほどだから、どこかでこんな古い絆を断ち切らないといけないのは誰もが分かっている。
しかし、今、この瞬間にお払い箱にするのは躊躇する。
いずれにせよ、森や二階の長老支配政治は駆逐しなければならないのだが、必要悪とみれば利用価値がある。
森や二階の存在は、そんな矛盾を露呈している。
しかし森は、自分の失言で表舞台を去った。
同様に山口と和歌山の選挙で、二階の神通力が陰れば、自民党政権や自民党員に必ず新しい動きを引き起こす。
それで立ち往生する場面があっても、いずれは長老を乗り越えなければならない。
そう思えば、森の辞任も決して悪いことではない。
また、自民党の刷新を願う立場から、林が河村の比例復活ができないほどの勝利で、二階の影響力が縮小することを願うばかりだ。