やっちまった、朝乃山!
勝ち越しの掛った12日目、対高安戦を強制的に休場させられた。
理由は「不要不急の外出は禁止なのに、場所の二日前にキャバクラに通った」と、全くみっともない。
これで来場所はカド番だが、それでは済みそうにない。
週刊誌報道を受けた相撲協会の事情聴取に「事実無根」と大嘘をついていたからだ。
下手をすれば半年、三場所の出場停止、若しくはそれ以上の厳罰となると、幕下陥落まであり得る。
朝乃山英樹
17歳の未成年ではない、27歳にもなっている。
立派な、大の大人だ。
その協会は、武漢ウィルス禍の中でも、必死の努力で本場所開催にこぎつけていた。
不要不急の外出など以ての外。
アァそれなのに、それなのに。
金看板の朝乃山が、率先垂範して夜の街に遊びに出かける。
しかもそれが週刊誌で暴露されると分かって、協会の聞き取りに対しては「事実無根」と白を切る。
「怪しい」と思った芝田山親方(元横綱大乃国)が、「嘘だったら大ごとになるぞ」と念を押しても、答えは変わらない。
ところが、11目取組後の聴取には、一転して外出夜遊びを認めてしまった。
こうなると、虚仮にされた相撲協会は怒り狂う。
大事な勝ち越しがかかった取り組みを前に、強制休場が執行された。
今回の一連の行状について、朝乃山は全く言い訳が利かない。
否認したのは、一緒に行ったらしい記者を庇いたかったのかもしれない。
しかし協会を挙げて自粛しているのに、仲間と連れ立って酒を飲みに出かけるとは、何たる自覚不足か。
しかし敢えて朝乃山を弁護すれば、これが高砂部屋なのだ。
つい先だって65歳定年退職したが、入門以来の朝乃山の師匠は、あの朝潮。
愛称「大ちゃん」の朝潮の弟子が、朝乃山だ。
あの師匠にして、この弟子あり。
これが高砂部屋の伝統だ。
朝潮と言えば、現役時代に成績が振るわない時、先代朝潮太郎が験担ぎで、しこ名を朝汐から朝潮に変えたことがある。
親方は朝潮がこれで発奮することを期待したのだが、朝潮の大チャンは「サインの時、字数が増える」と愚痴を言った。
朝乃山の親方は、そんな空気の読めないオトコだった。
だから弟子の朝乃山が、緊急事態でも夜遊びするのも親方譲りだ。
名門高砂部屋を引き継いだ後、関取がゼロになるほど落ちぶれさせた親方だ。
朝乃山が台頭して何とか形になったが、指導者としては全く成果を出せなかった。
親方の人柄の良さは、多くの人が認めている。
しかし土俵では、全く相手に会わせない仕切りでマイペースを貫く。
当時最強だった横綱北の湖が、朝潮の余りの身勝手な仕切りに腹を立てて、結果的に自滅することが多かった。
しかし朝潮は、常識人、北の湖の常識の範疇から外れた力士だっただけだ。
仮に朝乃山が幕下まで陥落しても、彼の実力ならすぐに幕内までは戻ってくるだろう。
しかし次に相撲が取れるまでの間は、実戦から離れて部屋で稽古をするしかなくなる。
横綱に近かった朝乃山には、その間の時間の浪費が痛い。
そもそも朝乃山は、法に触れることをやったわけではない。
組織を挙げて自粛している中で、自覚が足りず組織ルールを破っただけだ。
緊急事態宣言を出しながら、自らそれを破った国会議員たちとは質が違う。
しかし今や、朝乃山はあたかも犯罪者のように扱われている。
若干気の毒だが、しかしキャバクラに通ったのは事実だから、今更どうしようもない。
自分の能力低下を最小限に抑え、早くカムバックできるように、照ノ富士を参考にひたすら稽古に明け暮れるしかない。
今回の朝乃山の不祥事が、いずれは朝乃山が引き継ぐ高砂部屋の体質改善になることを願ってやまない。