最近の我が妻は、テニスの全仏オープンを熱心に見ている。
フランス語を勉強中なので、役に立つかもしれないと期待しているようだ。
ただ放送も解説も日本語だし、勝利者インタビューの大半は英語なので、フランス語の能力アップにつながるのは甚だ疑問だ。
当方は、テニスにはほとんど興味がない。
だから妻が夕食後に全仏オープンを見始めると、すぐに自室に籠って撮り溜めした録画を見る。
全仏オープンの間は、我が家はおおむねこんな感じになる。
この日、朝食の時に妻と顔を合わせると、些か興奮気味だ。
何でも、前夜のジョコビッチと対戦した19歳のムゼッティが、王者をあわやと言うところまで追いつめたらしいのだ。
妻に言わせると
・ムゼッティのプレイぶりが自由奔放
・難攻不落のジョコビッチから最初の2セットを取った
・勝てるかもと思ったけど、ホンのあと一息だった
・世界ランク76位だが、いずれ世界トッププレイヤーになる
と、親戚の青年が偉業を成し遂げかかったかのような口調で、まくし立てている。
掘り出し物を大発見したかのような妻の強い入れ込みに比べ、世の荒波を搔い潜ってきた当方は、こんな程度では全く驚かない。
冷静に最終結果を聞くと、やはり途中棄権で最後はジョコビッチが勝ったと言う。
要は
・若者が2セット連取して王者を追い込んだ
・しかし善戦健闘むなしく 最後は矢尽き刀折れて途中棄権
だったらしい。
僕には、これだけの情報があれば十分。
そんじょ其処らのテニス解説者など顔負けの、見事な論評ができる。
そんな会社員経験をしてきているのだ。
妻に対して先ず教え諭したのは、
・メジャーの大会では3セット取らないと勝てない
・途中まで2セット先行していても、何の意味もない
・ジョコビッチ(や僕)は「逆算の法則」で勝負を組み立てる
・3セット目勝利の最終ショットから今の戦い方を逆算する
・もちろん戦う前は3セット連取を考えている
・しかし相手が手強そうだと分かると1セット目は様子見に使う
・1セット目も取れればよいが、ダメなら相手の見極めに利用する
・同時に相手のスタミナを奪うような戦い方をする
・2セット目にその効果が出れば逆転の足掛かりになる
・しかしそうならない場合も想定済み
・2セットも相手の勢いが強ければ、勝負を3セット目からに切替る
・試合の中で1セット目よりも更に弱点を研究し、スタミナロスを引き出す
・この結果3セット目を取れれば、勝負は全く分からなくなる
だから今回、ムゼッティに2セットまで取られても、3セットで態勢立て直しが織り込み済みのジョコビッチに焦りとかはなかったはず。
2セットまでは負けても3セットを取らせないのが王者の戦い方で、これを「王者逆算の法則」と呼ぶ。
我々は、こうして自分の地位を守り続けてきたものだ。
今のムゼッティは2セットを取る力しかなく、ジョコビッチに勝つ実力はなかった。
と、諄々と君子・孫氏の兵法を披歴した。
この有難い教えを聞いた妻曰く
・ハァ、誰が王者?
・確かにジョコビッチは世界一のテニスプレイヤなので王者に匹敵
・しかしア~タはいったい何なのさ?
・まるでテニス道を究めてきたようなこと言ってるわネ
・しがないサラリーマン上がりなのに、よくもこんな能書きを思いつくもの
仰る通りでございます。
たしかに僕は、テニスなど好きでもないし、やったこともない。
ただね、会社員でも長く務めると、こんな解説とも説明とも言い訳ともつかない台詞をたくさん覚えるモノなのですよ。
どこかで聞いたような文言を並べると、さも一端の解説者みたいに振る舞うことができるし、知らない人なら「あの人、凄いッ」て勘違いするかもしれないのですよ。
世の中にゴマンといる解説者なんて、実態はこんな程度じゃないの。
解説者なんて俺でもできる。
と、悪態をついて妻との会話終了!