昔は平凡な企業戦士、今は辣腕頑固老人の日常!

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仕事から学んだ経験知

当方、もう40年近く、ひたすら営業の仕事を担当した。
理想の会社員には程遠い存在だったが、ずっと同じ仕事を続けたのだから、様々な人に出会い、様々な経験を重ねた。
経験知だけはかなりのレベルに達してしまったので、些か強引な理屈だが、「会社の経費で得た教訓なのでそれを伝える事は先輩としての義務だ」と、お節介を承知の上で後輩達を説教している。

顧客に、中卒の取締役がいた。
夜討ち朝駆け、猛烈社員の典型で、オーナー社長に気に入られ、破格の出世を遂げた人だった。
ヤリ手なので、対面としては手強い相手だったが、愛嬌のある人で決して嫌なタイプではなかった。
唯この人は、言葉の意味を取り違えて覚えたまま、会話の中で使ってしまう事が度々あった。
「我々は、この難局にタックルを組んで立ち向かう」を多発する。
無論、「スクラムを組む」事を、間違えているものだ。
流石にいい大人だし、意味は充分通じるので、誰も注意しない。
ある夜接待の場面で、酔って上機嫌になった彼が、得意気にこのフレーズを使った。
途端に、我が社の若手社員が、吹き出してしまった。
彼は慌てて席を立ち廊下に走ったが、そこでも笑いが止まらない。
かなりの冷却時間が過ぎて戻ってきたが、必死に思い出し笑いを押えているのが分かる。
当方、ハラハラしながらの接待だったが、何とか無事に宴席が終了した。

帰路、彼はまたもその場面を思い出したようで、「よくあんな状況で、冷静に相手出来ましたね」と、笑いながら声をかけてきた。
僕は「馬鹿者!」と大声で叱責した。
「確かに単語を間違えているが、それは彼の仕事ぶりや人間性には全く無関係だ。営業たるもの、彼の中身に対して敬意を払うべきで、そう思っていれば彼の発言を笑ったりはしないものだ。」
一瞬座が白けるほどの怒り方だったので、若い彼は少し驚いたようだが、それでも「スミマセンでした」と素直に謝ってくれた。
有難迷惑かもしれないが、こんな考え方がある事を後輩達が少しでも参考にして欲しい。
もしそうなったら、嫌われ役を買って出た甲斐があったと言える。

営業は、組織を代表して相手と交渉して、利益を実現する。
人と人の接触の上で、自分の思いを相手にどう理解してもらうかを追求する。
しかし対面の相手もまた、自社の利益を達成しようと思っている。
だから、自分の都合ばかり強調しても上手くいく事はない。
相手の立場にも敬意を持たないと、まともな交渉にならない。
要は、相手の立場も慮りながら、仕事に真面目に取り組む事に尽きる。
そして最終的に仕事が上手くいくかは、当事者の人間力、人品骨柄に拠る。
人間力とは、自分の魅力であり、相手からの信頼でもある。

書いてしまえば簡単だが、それを磨く為には日々の努力が欠かせない。
営業は、千差万別の人達と知り合い、その人達に影響し影響されながら自分を磨いていく事が出来る。
毎日の仕事それ自体が、人間修養の場面だ。
その事を、後輩達に分かって欲しいと思っている。