昔は平凡な企業戦士、今は辣腕頑固老人の日常!

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単身赴任と健康管理

会社の後輩が倒れた。
顧客との商談中、突然呂律が回らなくなったらしい。
本人は意識がはっきりしていて、なんとか普通に話そうと努力するが言葉が出てこない。
そうこうしているうちに、テーブルに突っ伏してしまった。
顧客が慌てて救急車を手配、一緒に病院まで同行してくれた。
途中、救急隊員から繰り返し、繰り返し、「大至急家族に連絡を」と依頼されたらしいが、後輩は口こそきけないが意識ははっきりしている。
救急隊員の緊張した声を聴いて、「自分は死ぬのでは」と、さぞかし不安な思いに駆られただろう。

病院での診断では、脳内出血。
言語障害と右半身麻痺の症状があり、今後二週間の検査を経た上で手術の要否を判断するとなった。
本人は何とか体を動かそうとしているらしいが、しかしピクリともしない。
全く体が言う事を利かない状態なので、ストレスが溜まっているだろうが、如何ともし難い。
彼は高校時代には野球部に所属、甲子園を目指したほどのスポーツマン。
今年も自分の母校の応援で地方予選に通い詰め、元々色黒だったのが、黒人みたいな肌色になっていた。
酒が大好きで愛煙家と、私生活は褒められたものではないが、外観は健康優良児そのものなので、我々は全員、彼は病気とはまるで無縁だと思い込んでいた。
そんな彼でも、病魔に見舞われる。
健康に自信がある人ほど、健康に無関心のまま仕事に邁進してしまう。
当然毎年、健康診断を受けていたので、何がしかのアラームはなっていたはずだ。
もっと用心していればと、悔やまれてならない。

以前大先輩が、脳梗塞で倒れた事がある。
前日日本酒を一升呑み干し、翌日のゴルフで昼休みにビールを痛飲した後の10番グリーンで倒れ緊急手術。
彼も、意識ははっきりしていたが、言語障害と右半身不随になった。
見舞いに行くと、子供のあいうえのボードを持ち出し、自由の利く左手でボードを指さしながらのコミュニケーションだったが、中身は全部仕事の事ばかり。
一日も早く現場に戻りたいと、鬼気迫るような雰囲気だったが、三か月後に医者から「長期戦になるので、仕事復帰は無理」と通告され、それまでの焦りが嘘のように消滅した。
その後の彼は、ひたすら「もう一度カルビを肴にビールを飲みたい」とリハビリに励み、とうとう一年後にはそれを実現した。
続いて「もう一度ゴルフをやりたい」と二年間ほど努力した結果、杖を突きながらだが娘婿たちと1ラウンドこなすところまで回復した。
「ドライバーが100ヤードしか飛ばなかった」と自嘲気味に笑ったが、我々は大先輩の元気な姿を見るだけでうれしい思いになったものだ。

この先輩は、病気で倒れても、他人と会う事を嫌がらなかった。
会話も歩行も元通りにはならなかったが、昔馴染みと会う事を喜んでいた。
自虐的に「不摂生が祟ってこんなになってしまいました」と話し、「やはり持つべきは家族だ」と、献身的に介護してくれた家屋に感謝するのが常だった。
それまでが、かなり破天荒な人だっただけに、素直に家族への感謝を口にする彼の変化には少々驚いたものだ。

今回の後輩は、家庭の事情で奥さんと子供が自宅に残り、彼は地方支店に単身赴任中だった。
これが今回の発症の、遠因になった可能性は否定できない。
単身赴任で体調を壊し、精神的に追い込まれて自殺した例すら知っている。
家族の存在は、健康管理だけでなく、全く無自覚だが、精神的な落ち着きにも一役買っている。
確かに猛暑の夏に帰宅した時、部屋中に熱気が籠っているとか、逆に極寒の冬に冷蔵庫のような部屋に戻ると、精神的に落ち込み、侘しい気持ちになってしまう。
外国人の大半は、日本ではごく普通の単身赴任について、「家族が離れ離れで仕事をするなんて信じられない」と半ば驚き、半ば呆れる。
僕は長い会社員生活の中で、幸いにして単身赴任の事態は避ける事が出来た。
顧客に、先輩に、同僚後輩に恵まれた会社生活だったが、何よりも健康を維持できた事が一番だった。
とにもかくにも、後輩の経過が良好な事と、一日も早い回復を祈るしかない。