昔は平凡な企業戦士、今は辣腕頑固老人の日常!

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意外とナァ

ユニークな先輩がいた。
実は繊細な人なのだが、日ごろの行動はまるで破天荒。
今は当たり前の「出来ちゃた結婚」の先駆者だが、彼の場合は昔風の夜這いをかけ、彼女をモノにした武勇伝を持つ。
結婚式は悪阻の真っ只中で、その半年後に第一子誕生。
そのわずか355日後に第二子が誕生し、子供二人は一年のうち10日間は同じ年齢になる。
「わずか一年半で、扶養家族が三人になった」と笑い飛ばしていた。

その彼は仕事の現役時代、しばしば誰も思いつかないようなアイディアを提案する。
そう言うと、何となくカッコよく聞こえるが、彼の場合は全くの思い付きを、さほど深く考えることなくすぐに口にする癖があった。
重大なクレーム発生の時でも、とんでもない解決策を口にする。
例えば機械が動かなくなった時に、「思い切って、大きなショックを与えてみたら」みたいな話だ。
昔の電化製品でもあるまいし、「接触が悪いから叩いてみよう」のような解決策が現実的であるはずがない。
全く常識外なのだが、至って真面目に話しかけるので、無視するわけにもいかない。
突拍子もない切り口に対して、「その根拠は?」と聞くと、「ウゥ~ン、意外とナァ、上手く行く様な気がする」と答える。

これは便利な根拠だ。
何せ「根拠は意外と」なので、どんな場面にも通用する。
普通なら「ふざけるな」とドヤシあげられるようなモノでも、彼の人柄から笑って済まされる。
尤も、常識的な人には、大発見はできない。
世の中の大発明は、悉く突飛な発想の持ち主によってなされている。
だから先輩のように、全くの思い付きに過ぎない意見でも、一応は聞いてみる必要がある。
世の中の偉人との違いは、彼の場合は意表を突く発想ではあるが、まるで根拠がない単なる思い付きでしかない事だけだ。

誰からも愛された彼は、定年直前に大病を患った。
一時は生死の境をさまよったが、奥さんと二人の子供の献身的な看病で奇跡的に生還、「持つべきは家族だ」と、しみじみ回顧していた。
本人も、「もう一度、カルビを食べながらビールを飲みたい」一心で厳しいリハビリに励み、退院の一年後には昔の仲間に囲まれて快気祝いをするまでに至った。
今は孫に囲まれて、好々爺人生を送っている。

彼は会社では決して出世した人ではないが、我々後輩に残した仕事上の影響は大きい。
その一つに、彼の天真爛漫な発想と、それを躊躇なく披露する良い意味での「厚かましさ」がある。
そしてその全てが、彼の全人格故に許される。
彼の所作振舞いは、誰にも決して真似が出来ないが、我々の憧れの的だった。