否定的な意見が、大半のように見受けられる。
太田出版は、この本を出版する意義について、様々に説明していた、
しかし四の五の小賢しい理屈は抜きで、「この本は売れると思った。自分たちがやらなかったら、必ずどこかが出版する。すると自分たちは儲け損なう」と、本音を話してくれた方が分かり易かった。
しかし分からないのは、太田出版が少年Aを、酒鬼薔薇聖斗こと東慎一郎と判断した根拠だ。
無論僕でも、このタイミングで出版を持ちかけてきたオトコが、あの酒鬼薔薇事件の犯人だろうとは思う。
しかし太田出版は、そんな素人判断ではなく、自分たちが出版する本の作者が酒鬼薔薇聖斗こと東慎一郎に間違いない事を、客観的に説明しなければならない。
酒鬼薔薇聖斗事件は、その猟奇性、異常性と、犯人がわずかに15歳だった点で、世間に大ショックを与えた。
その後彼は、国家的プロジェクトとして鑑別所や少年院で治療を受け、社会生活が可能と判断され、その結果既に実社会で生活していると言われている。
しかしその時には、戸籍だけでなく、姿、形まで変えていて、別人として生きていると聞く。
だからあの凄惨な事件を引き起こした酒鬼薔薇聖斗こと東慎一郎は、この世には存在していないはずなのだ。
それなのに、今頃になって、「自分しか知りえない事を伝えたい」と言ってきた人間が、果たしてあの時の犯人だったと、どのような根拠で判断したのか。
出版社としては、読者への責任として、著者である少年Aは間違いなく酒鬼薔薇聖斗事件の犯人であるとの証拠を示すべきだ。
あの事件の犯人が、社会復帰する時点で戸籍を変えたのなら、酒鬼薔薇聖斗こと東慎一郎としての人生は捨てたはずだ。
全くの別人物になる事を受け入れたはずなのに、酒鬼薔薇聖斗こと東慎一郎が犯した罪の詳細を本にするのは、自己矛盾だろう。
少年Aが、無論酒鬼薔薇聖斗こと東慎一郎ではない、普通の一市民として生きているのなら、酒鬼薔薇聖斗こと東慎一郎が犯した罪についての本を出すような行為が、被害者の遺族の感情を逆なでするだけでなく、更には社会復帰を手助けしてくれた多くの人をも裏切る事になる事にも思いを馳せるのが当たり前だ。
現に今回「少年院のカウンセリングでも言わなかった本当の事」などを発表しているが事実とすると、カウンセラーは本当の事を知らないまま、社会復帰を認めた事になる。
僕は、今回の著者、少年Aは、「自分が仕出かした事件は、世間では過小評価されている」との思いから、再度自己顕示欲がもたげて来たのではないかとの疑念を持っている。
それが、自分の犯罪への本当の懺悔だ。
そこまでの覚悟がないのなら、今更のように自分が捨てた人物の犯罪に対して、したり顔でコメントするのはやめるべきで、その犯罪には全く無関係に静かな人生を送るべきだ。