銀行へは、当初は妻一人で出かける積りだったが、道中のリスクを考え、どうせ暇だからと、当方も同行することになった。
銀行に到着し待つことしばし、妻の順番が呼ばれて、手続き開始。
フト壁を見ると、「60歳以上、100万円以上の場合は、無条件で事情をお聞きします。電話de振り込め詐欺だったらほめてください」みたいな張り紙があった。
暫く椅子に座って暇潰しをしていたら、窓口の妻が手招きをする。
窓口の女性から、「使用用途は?」と質問された妻は、数年前に使ったフレーズと同じ「家のリフォーム」と答えたらしい。
すると、「ではその見積もりを見せて欲しい」と言われ、現金の引き下ろしに苦戦していたようだ。
当方から、「実は、云々」と正直に事情を説明したが、窓口の女性は納得しない。
と言うよりも、警察から「理由がはっきりしない限り、現金を渡してはいけない」と、厳しく指導されているらしい。
窓口の女性では埒が明かず、続いて別の場所に移動させられ、男性行員が登場。
もう一度同じ説明をするが、「銀行としては、それでお金をお渡しするわけにはいきません。申し訳ありませんが、まもなく警察官が来ますので、別室でご面談ください」と言われてしまった。
別室で、待つこと10分。
制服姿の老警官と、若造警官が登場し、「我々はこの近所の交番勤務です。ところで、住所は、氏名は、電話番号は、同居している子供は?」とかを聴取し、記録していく。
こちらは勿論、全部正直に答えるが、どんどん時間が経過していくので、だんだんイラついてくる。
「振り込め詐欺を懸念されているのだろうけど、貴方達にここまで心配され、警告されて、それでも引っかかるのなら、それは自己責任ですよ」と言うと、「そう言われるとありがたいが、警察としてはやはり犯罪を未然に防止しなければならないので」と、中々解放してくれない。
当方も辛抱強く、「使用用途は斯く斯く然々、今日中に手続きを済ませたいので」と説得していたら、やっと「分かりました」となった。
これで一安心かと思いきや、「それでは今から市警察が来るので、そちらの了解を取ってください」と言い出した。
「それじゃ、今までの事情聴取は、いったい何だったんだ」と腹が立ったが、どうやら最初から、派出所勤務二人組は、市警二人組が到着するまでの時間稼ぎだったようだ。
更に、待つこと30分。
今度は私服姿の二人組が登場し、やおら警察官の身分証明書を提示する。
ここでまた、同じような質問をされ、同じような答えをする羽目になった。
派出署二人組から市警察二人組へ、「間違いがあっても自己責任と言って貰いました」と、簡単な報告があり、何とか取り調べは終了。
「時間を取らせて申し訳ないが、犯罪を未然に防ぐためにご協力を」と謝罪とも言い訳ともつかない説明で、やっと幕引き。
実際は、更に銀行の手続きに時間がかかり、目的の小銭を引き下ろすまでに、何と二時間近く要してしまった。
我が県は、この種の詐欺が全国でもトップクラスで多いらしい。
また市警察官二人組は、「つい先ほども800万円の詐欺を、何とか未遂で終わらせた」と話していたところを見ると、あれほど注意を喚起されても、詐欺に引っかかる老人が後を絶たないようだ。
当方も、今のところは見え見えの詐欺には、自衛力があるとは思っていても、敵もサルモノで、手を変え品を変え、老人を食い物にしようと、日夜努力を重ねている。
銀行や警察のお節介も、我々か弱き老人の為を思えばこそと思えば、腹の立ち方も少なくなる。
嫌な世の中だが「世に盗人の種は尽きまじ」と、自らに警戒警報を鳴らし続けないといけないようだ。