その用事が終わったので、夫婦で湯布院温泉に一泊することにした。
当日はあいにくの雨模様だったが、霧にかすむ湯布院岳はなかなか風情がある。
わざわざ古木を集め最近増築したらしい老舗の宿は、古さを強調することで、逆に新鮮さをアピールしていた。
温泉と食事だけでなく、従業員の接客態度も一級品。
この宿は、一組ずつ個室用建物を用意するのがウリなので、少々値段は張ったが、十分満足した温泉旅行だった。
湯布院までの列車の中は、前後左右全部が韓国からの観光客だった。
考えてみれば、韓国と九州の距離なんて、九州と大阪よりも近い。
ちょっと余裕のある韓国人によっては、格好の海外旅行先なのだろう。
韓国人若者のカップルは列車の中でも静かだが、年配の、特にオバハン団体は中国人並みにやかましい。
湯布院駅に降りると、どでかい旅行カバンを押している外国人観光客があふれかえっていた。
我々夫婦が宿泊した旅館には団体客はいない。
日本人客はわずかに数組で、後のほとんどが韓国人か中国人。
談話室でコーヒーを飲んでいたら、如何にも田舎っぺ丸出し風の老夫婦と出くわした。
ここで「おもてなし」精神発揮、韓国人に違いないと思って、わずかしか知らない韓国語の一つ「アンニョンハセヨ」と声を掛けた。
すると余りの発音の良さからからか、異国で巡り合った同胞と思ったらしい。
顔中をクシャクシャの笑顔にしたオバハンが、超早口の韓国語で話しかけてきた。
慌てて「No, no.イルボン、イルボン」と答えて窮地を脱したが、国際交流は楽ではない。
連中の目的は、温泉だけではない。
何と写真撮影して、帰国後に自慢話をすることこそが最重要な目的のようだ。
中国人のカップルは、女性が「狙い撃ち」を謳っていた時の山本リンダそっくりの、上が真っ赤なドレス風、下が真っ黒パンツファッションに身を包み、旅館の玄関先でポーズをとっている。
オトコがどでかいカメラでバチバチと連続撮影する様は、どう見てもプロカメラマンとプロモデル。
しかしその違いは、この二人がどう見ても田舎臭い中国人カップルにしか見えないことだ。
韓国人たちも負けてはいない、
どのカップルもとにかく至る所で、お決まりの「ピース!」と満面の笑顔ポーズ。
一心不乱にパチパチ撮りまくっているので、フレームの中に入ってはマズい。
日中、日韓友好の観点からは、傍を通るのも遠慮しないといけない。
マァそうは言っても、団体行動をしている時の韓国人、中国人に比べると、カップルで旅行中の彼らには、それなりの節度が感じられて不快感を持つことはなかった。
九州の片隅の田舎町の温泉でもこんなに海外からの観光客が多いと、改めてグローバル時代だと思い至る。
今やこの界隈の経済は、韓国、中国の景気を一体化している。
逆に言うと、仮に朴槿恵スキャンダルで韓国経済が失速すると、一見まるで無関係のはずの九州の温泉地にも大打撃となる。
グローバル時代とは、外国人を理解しなければならないだけでなく、外国の動向にも注意を払わなければならない、実にややこしい時代だ。