昔は平凡な企業戦士、今は辣腕頑固老人の日常!

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栄枯盛衰

どんなに頂点を極めても、いずれは必ず衰える。
あらゆる勝負の世界でも、未来永劫チャンピオンでい続けることはできない。
実は、サラリーマン社会も一緒だ。
運よく社長の座を射止めたヒトにも必ず退任の時期があり、その時には、出来るだけ自分の影響力が及ぶ人物を後継者に指名する。
ところが、いつもこんな思惑が上手くいくとは限らない。
やはり社長になってしばらくすると、自分の思うままに会社運営をしたくなるようだ。
最初は殊勝に先輩を立てていても、その内に、いつまでもあれこれ先輩風を吹かす前任者が疎ましくなる。
先代は良かれと思ってアドバイスをした積りでも、後輩が段々言うことを聞かなくなると、お家騒動の体を成してくる。

ただいくら先代が頑張っても、所詮は勝負にならない。
ほとんどの社員は現実に人事権を持つ社長に忠誠を誓うので、先代の部屋を訪れるモノ好きは激減する。
誰も報連相に来なくなるのは、社長時代に権勢を揮い、門前市を成すように人が集まっていたヒトにとっては寂しいモノらしい。
余計に意固地になったり、夢よもう一度と良からぬことを画策したりで、更に仲違いが進む。
僕が所属した組織でも、似た様な経緯をあったようだ。
こうなると、先代の部屋を訪れる社員は、社長から要注意人物と看做され、評価に影響がでたりするらしい。
(この辺は、役員候補者からの伝聞情報なので、真偽のほどは不明だが)

そんなある日、役員の先輩から頼まれごとがあった。
「実は先代夫婦が某大手顧客から、花火大会に招待された。誰かお付きが必要だが、自分と〇〇役員は改選期の大事な時期だ。ついては君に随行を頼みたい」

そもそもこの先輩を役員に取り立てたのは先代であり、ある時期までは一の子分を以って任じていたはずなのに、状況が変わると恥も外聞も、一宿一飯の義理もない。
先代の全盛時代なら、我こそ露払いをと志願する連中だらけだったはずなのに、時世時節を経ると同じ仕事を押し付けあう。
余りにもサラリーマン的な正直さに半ば呆れたが、社内事情はともかく顧客に対しては誠意を示さなければならない。
僕自身は自分の行く末には関心がなかったので、先代夫婦のお世話係として花火大会に一緒した。

先代は会社で顔を見た程度の知識はあるが、奥方は初めて会う。
しかも先代は軽度の脳梗塞で、歩く時には些か足を引きずる。
事前に滑りにくいスリッパを準備したり、好みの日本酒銘柄を聞きこんで準備しておく。
美術品鑑賞が趣味の奥方の為に、翌日の観光地もチェック。
我ながらこの辺は、顧客相手の接待で鍛えられている、
結果的に、先代夫婦も招待した顧客側も大喜びで、大満足の様子だった。

その後、会社では先代の秘書から、度々電話がかかってくるようになった。
曰く、「先代は貴方のことをエラク気に入ったようで、仕事について色々と聞きたいようです」
要は社長の手前、会社の主だった連中から敬遠されている先代にとって、格好の暇潰し要員が出来たようなものだ。
僕の方も、花火大会を機に先代に対して少々同情気味だったので、ホイホイと出かけ、事業の現状を説明する。
秘書からは、「先代は貴方とは、実の親子みたいに思っているようです」などと言われる。
一時期は栄耀栄華を極めた人なのに、会社員末期は本当に寂しい想いをしていたようだ。

僕はいつも、他人に少し遅れている。
先代と知り合ったのも、気の利いた連中が先代を敬遠したことからお鉢が回ってきたにすぎない。
だけど、だからこそ何の利害関係のない、損得勘定ゼロのお付き合いすることが出来る。
鎧の全てを脱ぎ去った先代の本当のキャラは、彼が権力を持っている時には見ることが出来ない。
こんな会社員人生もまた趣があるものだ。