訴えた相手は、今を時めく(実は、少し前まで輝いていた)評論家の山口敬之。
安倍首相と距離の近さと分かりやすい説明が売りで、一躍時の人になっていた御仁だ。
彼女によると、山口敬之は準強姦罪で逮捕直前に、「見えざる力」が働き、逮捕されなかったばかりか、不起訴処分になったのが納得できなかったらしい。
その二人の言い分から、合意か否かは不明だが二人の間で性交渉があり、彼女はそれを強姦と訴えたが、最終的には不起訴処分となったことは分かる。
山口敬之はその不起訴処分を持って、「何ら法律に違反していない」と主張しているが、伊藤詩織は「捜査妨害があったに違いない」と主張する。
二人きりのホテル内で発生した事件なので、当然ながら双方の主張は食い違っている。
彼女が再捜査を要請したのだから、最終結論は司直の判断結果を待つしかない。
僕は、もしも彼女の主張が正しいのなら、山口敬之は犯罪者だから必ず逮捕されると思う。
しかし彼女の言う、「見えざる力」なんて、全く信用できない。
もう何十年も前の話だが、僕の友人の父親が交通安全協会に勤めていた。
その友人は、「親父に頼めば少々の交通違反はもみ消してくれる、但し無免許と飲酒運転は除いて」と自慢していた。
当時は今ほどコンプライアンスにうるさくなかった時代だが、それでも重罪に対してはお目こぼしはなかった。
もしも今、こんなことをやったら、すぐに密告されて一巻の終わりになる。
ましてや、伊藤詩織が訴えたのは強姦罪だ。
そんな重犯罪を、誰かが山口敬之の為に、捜査方針が変えるよう働きかけるのはリスクが高すぎる。
また山口敬之と安倍首相が近しい間柄なので、あたかも安倍首相周辺からの圧力を示唆するような報道が流されている。
しかし当時の山口敬之はTBS社員であり、雇用主のTBSが顛末処理に奔走するのが常識だろう。
今回の顔出し告発で何よりも違和感があるのは、伊藤詩織が「今国会では共謀罪よりも強姦罪改正を優先審議」と主張した点だ。
彼女の記者会見に同席していた弁護士が民進党の関係者だった点から、民進党のバックアップで山口敬之を再告発したと思われるが、記者会見でいきなりこの発言をされると政治的背景が見えてしまう。
与党は「テロ等準備罪」と称する法律を、「共謀罪」と言うのも、如何にも野党寄りの政治姿勢と見られる。
僕は今回の告発で、山口敬之は評論家としては終わったと思っている。
一部にはハニートラップとか美人局との説もあるが、仮にそうであっても、山口敬之の立場としては、女性をホテルに連れ込んではいけないし、いわんや性交渉を行ってはいけない。
ましてや彼女は、就職を依頼していた弱い立場の人間なのだから、そんな相手と飲酒し、結果として訴えられたのなら、如何なる言い訳も虚ろにしか聞こえない。
週刊誌がこの事件を報道するまでは、保守的な主張を分かりやすい語り口で説明する山口敬之を、久しぶりに見る気鋭の評論家と注目していた。
何せ他の評論家と称する連中は、反自民党の旗幟鮮明で、ひたすら安倍政権の揚げ足取りばかりなので、個人的には山口敬之にはもっと活躍して欲しいと思っていたほどだ。
しかしこんな事件が明らかになると、今後いかに山口敬之が弁舌さやかに論じたとしても、伊藤詩織に暴露された醜態が浮かんできて、まともに聞く気にならない。
だから伊藤詩織の目的が、山口敬之の社会的抹殺ならば、ほぼその目的は達成したといえよう。
しかし、本来女性なら公にはしたくないこの手の問題を、敢て顔出しで告発した伊藤詩織が、他に政治的な狙いがあったとしたら、「ひどいことをされた可哀そうな女性」を利用していると思えてくる。
さっそく民進党議員や左翼活動家たちが、「詩織と共に戦う」とメッセージを発信している。
東京都知事選で鳥越俊太郎が同様の問題を指摘された時には、頬被りを決め込んでいた連中が、今度は女性の人権を振りかざすとは、そのダブルスタンダードに呆れるが、そうと分かっていてこのタイミングで伊藤詩織が山口敬之を告発したのなら、彼女の言い分を素直に聞くことはできない。