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神戸製鋼のデータ偽装

高品質と信頼性は日本製の代名詞だが、そんな信用を覆す事態が続出している。
日本を代表する神戸製鋼のデータ偽装、日産自動車とスバル自動車の車輛完成検査の不手際。
いずれも長年に亘る悪弊であり、問題視された後も続けていたとなると、企業のコンプライアンス統治が全く機能していなかったことを裏付けている。
ただ日産、スバルは、自社で製造した車の完成検査を無資格社員に任せていた問題であり、車そのものは正常だったと言い訳できるのに比べ、神戸製鋼の場合、製品の原材料のデータ偽装なので、顧客を巻き込んだ話になるので、ダメージの深さは格段の差がある。
 
原因について、派遣社員に頼らざるを得ないほど、業務が過重だとの解説があった。
しかし僕は、自分の経験からして、そんなことではないと思っている。
本当の原因は、過度なまでに高品質を求める日本企業の体質にあるのではないか。
それは実は、日本企業の強さの裏返しだ。
日本の製品が世界で認められているのは、痒い所に手が届くほどのサービス精神と、ほとんど故障しない品質への安心感がある。
それを担保するために、日本企業は現場の隅々にまで、品質改善の努力を求める。
勤勉な日本人は、この企業の要求にこたえようと、トップの社長から新入社員に至るまで、ひたすら品質向上を目指して働いている。
 
具体的には、製造現場から納入業者に対して、常に品質が改善された原材料の供給を求め、それを品質管理部が不断にチェックするシステムとなっている。
 
ところが、原材料の品質向上など、そうは簡単なことではない。
しかし「お客さまの要求は天の声」なので、「出来ません」とか「難しい」と言うのは、自ら敗北を認め、戦線離脱を宣言するようなものだ。
やむを得ず、果てしなく技術向上に取り組まざるを得ない。
そうこう苦労している間に、ライバル会社では顧客の要望を満たした原材料が出来上がったとの疑心暗鬼にとらわれる。
このままでは、コンペに勝ち残れない。
そんな焦りから、取り敢えず顧客を満足させるために、手作りの原材料で合格の認可を取る道を選ぶ。
しかし、本生産ではそんな曲芸みたいな作り方は出来ないので、実は顧客を満足させる品質は再現できない。
そこで悪知恵を働かすのが、データを偽装することだ。
 
幸か不幸か、製造ロットごとに報告するデータは、同じ材料でも試験機によって数値が違って出る。
供給サイドと顧客の間で、ある単位のロットでデータを取り、相互確認の上で数値化する。
供給側から顧客への数値は、その換算式を使って報告する。
しかし実は、ここに闇の陥穽がある。
換算式を勝手に改竄し、規格を満たしていない材料を、合格品として出荷してしまうのだ。
 
神戸製鋼側には、例え規格に合格していなくても、実用上は全く問題ではないとの確信がある。
現に、この問題が発覚した後も、その点に関してはクレームが発生していない。
即ち、現在顧客と結んでいる納入規格は、明らかにオーバースペックなのだ。
しかしそれは、言い訳にはならない。
約束は約束であり、それを密かに破っているのはウソをついたことになり、神戸製鋼が言うことは信用できないとなってしまう。
顧客や世間からの信用を失くしたメーカーの商品は、市場でも信用されることはない。
そんな簡単なことが、神戸製鋼の現場では分かっていなかった。
 
20年前までは、メーカーのデータ偽装は神戸製鋼以外でもありうる話だっただろう。
しかし法令遵守がうるさくなって以降、各社共この手の話を撲滅しようと社内管理を徹底したはずだ。
神戸製鋼ともあろう会社の現場が、そんな社会の変化に鈍感だったために、データ偽装で得た利益に比べ、遥かに大きなペナルティを喫することになってしまった。
今になって、失ったものの大きさを知っても遅すぎだ。