単なる年寄に格下げされ、「一兵卒」として部屋経営に専念していたはずだった。
各テレビ局共に記者会見を前に、引退理由をあれやこれやと詮索していたが、共通だったのは「各部屋はどこかの一門に所属しなければならない」との相撲協会内規が原因との認識だった。
貴乃花は、「事実無根ではないものを、事実無根と認めることはできない」と主張していた。
如何にも貴乃花らしい言い方だが、NHK仮屋アナから「それは誤解では?」と質問されると、一瞬答詰まった後に全然違うことを言い出した。
しかし当時の貴乃花は巡業部長であり、自分が先頭に立って事実究明を進めれば、協会のもみ消しなんかできるはずがない。
その会社は実力社長が君臨していたが、任期が長くなったので後継者に社長を譲り、自らは会長となった。
その時に常日頃目を懸けていた役員に対して、「彼はワンポイントで、次の社長は君だ」と約束していたらしいのだ。
ところがこの会長が、突然死亡してしまった。
そこからは、現社長派と次期社長を約束されていた役員派の、血みどろの権力闘争が展開された。
結末は、やはり有形無形の権力を持つ現役社長の勝利に終わり、誰もが認めた「仕事のできた役員」は会社を去っていった。
しかしこの時もまた、現役理事長の政治力が勝り、選挙の結果八角理事長が正式に誕生してしまった。
貴乃花の悲憤慷慨振りは、想像に難くない。
一方の貴乃花親方は、昨日の時点でも尚、何を言っているのか、何をしたいのかが分からない。
唯一力説したのは、「可愛い弟子たちのために断腸の思いで」だったが、これもまた、「そんなに弟子が大事なら、相撲協会を相手に戦え」と言いたくなる。
貴乃花は「相撲道の復活」と力説していたが、これもまた何のことか分り難い。
しかし仄聞する限り、相撲部屋への拘りから、むしろ古き良き時代の大相撲への回帰を目指す守旧派の印象すらある。
しかしいずれにしても、貴乃花の考えは他の親方連中には全く伝わっていない。
これでは、仮に素晴らしい改革案があったにしても、絵に描いた餅以下でしかない。
相撲取りにとって最も重要なのは、マスコミ受けでもないし、一般的な人気でもない。
相撲取りからの信頼がなければ、相撲協会の改革なんてありえないではないか。
噴飯モノなのは、この際に貴乃花親方は新団体を設立するべきとの、まるで頓珍漢な意見だ。
貴乃花の支持者には、こんな意見の持ち主が複数見受けられるが、新団体を作ったとして肝心の力士はどうする積りだろう。
プロレスにでも転身すれば別だが、相撲を取る限りそんな団体の相撲なんて誰も興味を持たないし、長続きしない。
タニマチだってついてこないので、資金面ですぐに行き詰る。
貴乃花本人も否定していたが、絶対にありえない話だ。
それが、格下と思っていた八角親方との権力闘争に敗北したことに我慢できず、準備不足のクーデターに失敗してしまい、行き場を失ったのが残念だ。