この画家の作品は、大目に見繕っても37点。
これが世界中の美術館に、散らばって展示されている。
アメリカのメトロポリタン美術館、ワシントンナショナルギャラリー、フリッツコレクション。
オーストリアのウィーン美術史美術館、フランスのルーブル美術館、イギリスのロンドンナショナルギャラリー、オランダのマウリッツハイス美術館。
オランダデルフトの生家はフェルメールセンターになっていて、全作品のコピーが展示されている。
中には、「真偽不明で、贋作と疑われている」ものまでコピーしている。
こんなところは現地に赴き、金さえ出せば見ることが出来るし、実際に観てきたが、中には数点、個人で所有しているケースや、アイルランド国立美術館など、観光地としてあまりポピュラーではない場所にも展示されているので、全作品制覇は夢のまた夢だ。
そんな世界的に有名なフェルメールの作品が、たまに日本でも公開される。
すると、驚くほど多くの日本人が押しかける。
フェルメール人気の、凄まじさがよく分かる。
作品の前は黒山の人だかりで、しかも動きが超スローなので、目指す作品の前まで中々到達できない。
フェルメールの代表作品「真珠の首飾りの少女」が公開された時には、たった一点を見るためにニュースになるほど客が押し寄せた。
一方海外の美術館では、いつでも鑑賞できるとの安心感や、観光客目当てにベラ高な入場料金が設定されているので、現地の連中はほとんどいない。
しかも美術館のサービス精神も旺盛で、そのような作品の前には長椅子まで用意されている
結果として、どれほど有名な作品でも、現地の美術館ではほとんど独り占めに近い状態で心行くまで鑑賞できる。
それが嬉しくて、海外まで遠征するようなものだ。
ところが今般上野の森美術館で、フェルメールの作品が一度に八点も公開される。
しかも混雑回避のために、チケットの予約段階で入場時間が決まっている。
フェルメールファンとしては、この展示会は逃すわけにはいかない。
と言うことで昨日、朝9時半入場のチケットを握りしめ、会場の上野の森美術館へ出かけた。
既に列ができているが、その最後尾に「待ち時間は10分ほど」の看板を持ったオニイチャンがいて、客を整理している。
入場すると、すぐに無償で音声案内を貸してくれる。
そしていざ中に入ると、そこはオランダ絵画の部屋。
フェルメールと同時期のオランダ画家の作品が展示されているのだが、そこでいきなり、ものすごい混雑に見舞われた。
前座ですらこれでは、肝心の「フェルメールの間」は如何ほどのモノかと不安な思いに駆られる。
観客は音声ガイダンスを聞きながら、一点ごとにパンフレットの説明を読んでいるので、進行が全く遅い。
実は我々夫婦は、既に今回展示品の大半を現地まで出向いて鑑賞しているが、まだ見ていないのがスコットランドナショナルギャラリー所蔵の「マルタとマリアの家のキリスト」と、アイルランド国立美術館の「手紙を書く婦人と召使」なので、この部屋はかなりの部分をショートカットし、「フェルマールの間」に急ぐ。
特に絵画に一番近い列に陣取った連中は、絵から離れようとしない。
絵画なんて、数メートル離れて鑑賞した方が心に訴えてくると思うのだが、全員がここを先途と、かぶりつきで矯めつ眇めつ、必死の形相で覗き込んでいる。
挙句は売店で、記念品を買った人たちが、キャッシャーで長蛇の列を作っていた。