仕事で現役だった頃の一時期、渡世の義理で女子プロゴルファー、横峯さくらを応援していた。
その彼女は、僕が引退した後に、整体師で心理セラピストと結婚し、三年前にアメリカツアーに挑戦した。
しかし残念ながら、海外では全く成果を残すことが出来ず、昨年はついにシード権を喪失している。
その後は、日本のチャレンジツアーや、わずかに参加資格のあるトーナメントに出場しているが、予選通過が精いっぱいで、往年の強さはどこにも見られない。
不思議なもので、昔ならきっと決まると思って見ていたパットも、自信なさげで決まる気がしない。
彼女から、勝負師オーラが消え失せた感じがするのだ。
恐らくは。愛する亭主の口車にでも乗せられたのだろうが、ど素人ながら僕は、彼女のアメリカ挑戦は無理だろうと思っていた。
何故なら、彼女のフォームは、とても海外で通用するような代物ではないからだ。
僕は、いくら変則フォームでも、それで固まっていれば問題ないと考えてきた。
しかしアメリカのような広大な国でトーナメントを戦う場合、技術的レベルに加え、体力が重要なファクターだ。
異国の地で、慣れない食事をしながら、彼女のようなオーバースウィングで戦い続けるのは至難の業だ。
しかも彼女は、日本人の中でもどちらかと言えば小柄だ。
畑岡奈採も小柄だが、横峯に比べれば、体つきもフォームも、体幹がしっかりしている。
彼女のアメリカツアーチャレンジは、僕には分不相応だったとしか見えない。
こんな選手は、他にもいる。
女子では有村智恵がそうだ。
石川遼もまた、その一人だ。
その為の英会話もしっかり勉強して、今や流暢な英語喋りになっている。
ドライバーは、より遠く、より正確にショット出来る。
アイアンは、ピンに絡ませることが出来るか、若しくはグリーンをとらえることが出来る。
万一失敗しても、リカバリーショットには、目を見開かせる才能がある。
そして止めはパターで、ショートパットを外すことはないし、例えどんなにロングパットでも、見事に決めるか、入らないまでも、カップを舐めるような軌跡を描く。
アメリカのツアーにはそんな連中がゴロゴロいて、毎週鎬を削っている。
自分の技術的未熟さを知り、何としても追いつきたいとフォーム改造に取り組むと、今度はそれまでの長所まで消えてしまう。
そんな悪循環に陥り、成績が上がらなくなり、結果としては撤退を余儀なくされる。
誰もが、世界的に通用する選手になりたいのだろう。
日本で成功し、敵がいなくなれば、もっと手応えのある場所でプレイしたくなる気持ちも分かる。
しかしそこで成功するゴルファーは、ほんの一握り。
後は見果てぬ夢を追い求めただけで、挫折感に打ちのめされる結果が待っている。
どちらを選ぼうとそれは個人の自由、勝手だが、プロゴルファーになり、海外ツアーに挑戦するほどの才能に恵まれたために、却って悩みが増えることになる。
エリートであるために、才能のない人間にはまるで無縁の苦しみを味わうとは、人生は全く平等だ。