今年こそ箱根駅伝での総合優勝を逃したものの、昨年まで四連覇を達成している青山学院の原晋監督。
駅伝の名監督で、その明るい性格と指導方法で、いずれは政界進出とまで噂されていた御仁だ。
しかし、問題提起した宮根誠司と同様に、熟考を重ねた上で意見を言うタイプではなさそうだ。
確かに、箱根駅伝の一番の問題点は、関東地区の大学しか出場できないことだ。
あれ程の人気コンテンツなので、「俺ラが町の大学が走っているのを見たい」との希望は分かる。
しかし、要は単なる地方大会に過ぎないのだが、それはそれ、今年で95回を数えた大変伝統のある競技だ。
毎年正月の風物詩として、すっかり日本の茶の間にも定着している。
世の中に駅伝大会は数多くあるが、二日間にわたり東京-箱根間を往復する箱根駅伝は、規模から見ても、人気の度合いから見ても、他の大会の追随を許さない。
日本の長距離陸上ランナーにとって、野球少年が甲子園に憧れるのと同様、あるいはそれを上回るほど、箱根駅伝は最大で最高の登竜門なのだ。
勢い、日本中の長距離陸上界の高校生精鋭たちは、箱根で走ることを目標に日々努力しているし、箱根で走りたいから関東の大学に入学する。
だから、関東の大学とソコソコの勝負ができる地方大学駅伝部など、どこを探しても存在しない。
それほど、大差がついてしまっているのが現状だ。
確かに地方にはもっと多くのチームが参加している駅伝大会が存在するが、「正月に箱根を走る」ことが合言葉の大学駅伝部やランナーたちが、箱根以外で走ることを良しとするはずがない。
また短期間で、全国の大学駅伝部の力を均等化するなど、出来っこない。
箱根駅伝こそ自分を売り出すチャンスと考えてきた高校生たちが、そのような選択をすることなどあり得ない。
それでも尚、全国区化を進めるのなら、最初の五年間くらいは、遥かにレベルの高い関東地区大学と、実力はまるでないがライバル大学が少ないから選ばれた地方大学の競争になり、箱根駅伝の大いなる楽しみの、抜きつ抜かれつのデッドヒートなどなくなってしまう。
極端に実力の差がある競技など見ても面白くないから、視聴率も落ちるだろう。
また全国区化は、有力な高校生ランナーだけが割を食う訳ではない。
関東の大学の中には、箱根駅伝を「大学興し」に利用してきたところも多い。
それまで名前すら知られていなかったのに、アフリカから留学生を呼び込んだり、あるいは全国を探し回った人材をエースランナーに仕立て上げ、箱根駅伝で一気に有名になった大学は数多くある。
そんな大学にとっては、箱根駅伝に出場できるか否かは死活問題にまでなっている。
原監督の青山学院は、仮に箱根駅伝の出場権を失くしても大学としては何一つ心配がないかもしれない。
要は、箱根駅伝の全国区化などは、単に絵に描いた餅に過ぎないのだ。
原監督は優勝できなくてもテレビに出ずっぱりで。箱根駅伝の広告塔の役割も果たしている。
それならば、出来もしない奇麗ごとを夢想するのではなく、一緒に箱根駅伝を盛り上げてきた青山学院以外の関東地区大学のことまで忖度して話した方が良い。
そもそも百回にまで達しようとする歴史と伝統がある地方大会を、全国区に広げる意味があるのか?
「これは関東地区大学の駅伝だ、嫌なら見るな」と開き直っていいのではないか。