昔は平凡な企業戦士、今は辣腕頑固老人の日常!

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僕の知人は大社長だった

僕の知り合いは、名前を聞けば、誰もが知っている一部上場大会社の社長だった。
彼は、かなりの期間社長を続け、世間では大社長、名社長として喧伝される存在となった。
隆々たる業績を維持し、最近、社長を後進に譲り、現在は会長として活動している。

初めて出会った時の彼は、海外駐在から帰ったばかりの課長だった。
僕が売込む製品の特徴を、おっとりと静かに聞いてくれた。
当社の品質が良かったのか、当方の熱心さを評価してくれたのかは分からないが、彼はいろいろの機会で当社品採用をバックアップしてくれた。
彼の人柄の良さにこちらはすっかり甘えてしまい、お客さんなのに友達みたいな感じで付き合っていた。
まもなく彼は、他部署へ部長として栄転し、直接の仕事の関係はなくなったが、それでもたまに会いに行き、四方山話やゴルフを楽しむ間柄だった。
彼は、その後、更に取締役、常務、専務と昇格していった。
僕は、アレヨアレヨと出世していく彼を、まさに狐につままれた思いで見ていた。
彼は偉くなった後も、それまでと全く変らず、いつまでも平社員に毛の生えたような僕に対しても、会えば気軽に声をかけてくれるし、時間があれば食事にも付き合ってくれた。
ある日、自宅に後輩から電話があった。
「△△さんが社長になるらしいですヨ。」
吃驚仰天。驚天動地。
専務まで偉くなっただけでも驚いていたのに、社長になるなんて。
翌日の新聞には大々的に彼の社長就任が掲載されていた。

その後の社長としてのコメントは、将に彼の面目躍如たるものだった。
「私は、社長になれるとも、社長になりたいと思ったことはありませんでした。従って、いつでも社長を辞める覚悟があります。」
彼は、人品骨柄が素晴らしい人物だが、一方では派手さを嫌う地味は存在だった。
そのような彼を、社長に抜擢した彼の会社の奥行きの深さを僕は尊敬している。
社長になってしまうと、さすがに秘書を通さないと会えなくなってしまった。
彼が社長の間、僕の周囲からは、「君は△△社長と知り合いらしいな」との、驚きとちょっとした羨望の問いかけが多くあった。
僕は、いつも決まってこう答えた。
「社長が知り合いではありません。知り合いが社長になったのです。」