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松本清張の世界

松本清張生誕百周年なんだそうな。
傑作小説のテレビドラマ化、映画化が目白押しだ。
僕は、自慢じゃないが清張作品のほとんどを読んでいる。

あまりに読みすぎて、一つ一つのあらすじを覚えていないほどだ。
ある推理小説を読んだ時、ほとんどのトリックを先読みし、犯人も特定できたので、「素人に分かるようなネタを書くなんて、清張もたいした事ないな」と小馬鹿にしていたら、本棚に全く同じ本がおいてあった。
既に読んでいた事を忘れて、同じ本をまた買ってしまったチョンボだったが、事ほど左様に清張に熱中した時期があった。

「点と線」や「砂の器」のような長編も素晴らしいが、特に初期の短編集の「顔」とか「西郷札」とかも忘れがたい。
とにかく面白い作品が目白押しで、さすがに昭和を代表する大作家先生だったと改めて痛感する。

ところで、「ゼロの焦点」がリメイクされるたびに思う事がある。
この小説では、米軍相手に売春をしていたいわゆる「ぱんぱん」と呼ばれた女性が、過去の忌まわしい思い出を覆い隠す為に罪を犯す事が主題だ。
当時の「ぱんぱん」は、売春婦だっただけでなく、英会話に長けたインテリ女性も含まれていて、生活の為、あるいはアメリカ人への供応の意味で、そのような女性が売春婦に駆り出された世相を背景にした社会派小説だったと記憶している。

ところが現代版にリメイクすると、そんな女性はいないし、そんな社会背景もない。
ほとんどが「ソープランドに勤めていた事を隠す」様な設定になる。
(現在テレビで猛宣伝しているリメイク版が、どのような設定になっているのかは知らないが)
しかし現代のソープランドでは、往時アメリカに媚を売る為に「ぱんぱん」なるインテリ女性が存在していた社会背景が絶対に再現できない。

誰もが戦後の混乱を忘れ去っている。
現代の出会い系サイトは犯罪の温床になっているが、当時は男女共に恋愛結婚のチャンスが少なく見合いが主流で、相手の事をほとんど知らないままに結婚してしまう時代だった。
毒々しい化粧で街角に立つ売春婦を見る事など、ほとんどなくなった。
戦後時代を背景に世相に切り込んだ松本清張の世界を、現代に持込む事は難しいのではないだろうか。

やはり清張は、本で楽しむに限る。