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イチローのトレードと川崎宗則

イチローの、突然のトレードには驚いたが、果たして新聞の社説を飾るほどの出来事なのか。
我が愛読紙、産経新聞は社説トップで、イチローの再挑戦を激励していた。

昨年から今年にかけてのイチローの成績は、どう贔屓目に見ても14億円の年俸に見合っていない。
年も年なので、冷静に見れば「旬が過ぎた」と判断されても仕方がないし、大リーグでは弱小球団のマリナーズが放出を決めたのは、アメリカ的には当たり前だろう。
大選手のプライドからか、「自らトレードを志願」となっているようだが、それまでは三番の主軸バッターが、ヤンキースではライトで8番。
まさに「ライパチ」選手扱いなのだから、現実は厳しい。
トレード発表の日に、いきなりそれまでの所属チームのホームグラウンドで、ビジターのユニフォームを着て再出発とは、日本では些か見せしめのような気もするが、観客は大声援で激励したらしい。
これもまた、如何にも大らかなアメリカそのもののような気がする。

僕は、日経新聞の片隅の小記事に興味を持った。

イチローを慕ってマリナーズ入りした川崎は、兄貴分がヤンキースに移籍して元気がなかった。出場しなかった試合後も球団広報を通じ「コメントはなしにしてください」とした。 イチローも、自主トレーニングから一緒に練習に取り組んできた川崎については「迷った中の要素」と思いやった。「一緒の場所にいることが必ずしも一緒にやっているということではない。違うところでも一緒にやれるという考えが僕の中にある」と語った。』

途方にくれている川崎と、そんな川崎に同情しつつも困っているイチロー
義理や人情の、いかにも日本人的な構図が見えてくる。
確か川崎は、フリーエージェント資格を得てすぐに、イチローのいるマリナーズの二軍選手契約から大リーグスタートしたはずだ。
開幕には念願のメジャー昇格を果たし、感激で泣いていたシーンが放送されていた。

憧れのイチローと同じ舞台には立てたが、しかし大リーグはそれほど甘くはない。
今年の成績は、打率二割にも満たず、お世辞にも成功しているとは言えないが、本人は尊敬してやまないイチローから学ぶものが多いと、健気に努力していた。
ところが、肝心要のイチローが、マリナーズをお払い箱になってしまった。
今の川崎の成績では、到底ヤンキースが食指を伸ばすはずもない。
イチローがいくら一緒に連れて行こうと願っても、適わぬ相談でしかない。

僕達のサラリーマン社会でもよくある話だ。
自分を慕ってくれる後輩を、自分のセクションに引き抜く。
後輩は、崇拝する先輩と一緒に仕事ができる喜びから、どんな仕事も嫌がらずにこなす。
先輩の方も、そんな後輩を可愛らしくも頼もしくも思い、更に信頼関係が深くなっていく。
と、ここまでは良いことばかりなのだが、サラリーマンには宿命的な転勤が待ち受けている。
肝心の先輩が会社都合で転勤してしまうと、支えを失った後輩としては、どこまでも先輩を慕ってついていくのか、はたまた自分が実績を積んだ職場に残り先輩から自立した道を選ぶのか、会社生活の岐路を迎える。

僕の好敵手だったライバル会社の社員にも、これと全く同じ事が起きた。
彼が慕った先輩は、誰もが知っている大会社の、押しも押されもしない将来の社長候補。
この先輩もまた、僕の好敵手を高く評価し、重要な業務を任せていた。
しかし会社での出世競争の結果は、必ずしも実力だけで決まるわけではない。
武運拙く、この先輩は社長になり損ね、関係会社へと天下ったが、この時彼は可愛がっていた僕の好敵手も一緒に引き連れていった。
後で聞いたら、好敵手は心の葛藤があったらしい。
しかしやはり、自分を評価してくれる先輩の要請を断りきれなかったようだ。
その後、将来を嘱望されていた僕の好敵手は、残念ながら能力ほどには目立った活躍も出来ず、普通のサラリーマンとして定年を迎えた。
彼がその結果を、どう受け止めていたのかは知らない。

僕の場合は、敬愛する先輩から、「好き嫌いで人事を動かしてはいけない」と教えられた。
自分が評価しているヤツを自分の部署に引き込むと、自分が異動した後に責任を持てなくなる。
それは、双方にとって不幸になる。
「人事は他人に任せなさい。」
「事業がどんなに厳しくても、与えられた戦力で、全力を尽くしなさい。」
「例え後輩から頼まれても、自分の好きな人材を集めると、長いスパンでは仕事が出来ない。」
僕の尊敬した先輩は、いつもそんな言葉で諭していた。
僕もまたその言葉を信じて、人事に関しては常にあなた任せの会社生活を送り続けた。