昔は平凡な企業戦士、今は辣腕頑固老人の日常!

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死に場所、死に花

某日、某氏から急なアポが入った。
「僕があなたの後任になりました。」
彼はそう切り出した。
僕は、いずれはこの日が来ることを覚悟していたし、その為の心の準備もしてきた。
心していたのは一点だけ、「潔く振る舞う」事だった。

僕:「分かりました。貴方が後任なら安心です。で、交代はいつ?」
彼:「某月某日は如何でしょう」
僕:「結構です。」
彼:「で、その後はどうされます?」
僕:「一切、会議も出席しません。会社にも来ない積りです。」
彼:「いやいや、それは困ります。」
最後の社交辞令みたいな引き止め台詞には、丁寧にお礼を言ったものの「やはりスパッと辞めるのが一番」と、我ながら潔く振る舞えたと満足していた。

この後、気の置けない仕事仲間たちに別れを告げた。
「斯く斯く然々の事情で、某月某日でサッサと仕事を辞める。」
僕はここで、「さすが、潔いですね」と、皆の衆の賞賛があると思っていた。

ところが帰ってきた答えは、実に厳しかった。
彼等:「今までの仕事はどうするんですか?」
僕 :「それは君たちが、最後までやり遂げるんだよ。」
彼等:「客には、どう説明するんですか?」
僕 :「私たちが責任を持って推進しますと説明してくれよ、何せ僕は潔く辞めるのだから。」
と、暫くは禅問答みたいな話をしていたが、業を煮やした後輩が放った一言には心底痺れてしまった。

「貴方ねぇ、勘違いしていませんか?貴方の散り際の美学なんて、事業には一文の徳にもならない。最後までバタバタ足掻いて、今よりも少しでも事業を良くした上で仕事を辞めるのが、貴方の責任ですよ。」
要は、どうせ死ぬのなら、潔さなど御免蒙る、最後の最後まで現場に拘って、精一杯の努力で後輩の為に少しでも成果を上げて、その挙句で会社を辞めろと言っているのだ。

返す言葉もなかった。
自分だけカッコ良く立ち去っても、その分、後に残った連中が苦労したのでは全く清々しくない。
「分かった。それじゃ、もう一回頼んでみる。足掻いてみるよ。」
そう言うしかなかった。

そんな経緯だったので、やむを得ず後任のところに赴く。
「僕は入社以来ひたすら営業として働いてきました。先だってはサッサと退くと言ったけど、会社員としての最期を、営業現場で迎えたいと思い直しました。経営にも戦略策定にも、一切関心はありません。ひたすら現場で、最後の一働きをさせて欲しい。」
まさに恥を忍んで、こう頼み込んだ。

確かにカッコ良い散り方は、僕には似合わない。
営業としての仕事は、偶に勝つことがあったが、多くは負け試合だった。
多くの顧客、先輩、同僚、後輩と知り合い、影響され、影響を及ぼしながら40年以上の会社生活を送ってきた。
そんな僕の死に場所は営業現場でしかなく、死に花も営業現場に密かに咲くのだろう。

若かりし頃を思い出して戦場でもう一働き、商売上のライバルにせめて一太刀を振るって、返り血を浴びながら死んでいこう。
後輩連中に、少しでも置き土産を増やす!
ライバル連中、覚悟!
そんな心境になった。