その記者会見で甘利明が語った内容や態度を評価する人もいるし、全くのマヤカシと批判する人もいる。
ことほど左様に、人によって受けた印象も語った感想も違う。
人の評価なんて、所詮そういうものだ。
実際の記者会見では、途中で甘利明は涙ぐむ場面もあった。
好意的に見れば、苦労に苦労を重ねてやっとまとめたＴＰＰ交渉の最終段階で、とんでもないスキャンダルに見舞われた悔しさの所為と思われる。
しかし否定的に見れば、あらゆる「証拠」が揃えられていて、もはや言い逃れができない状況まで追い込まれたとも考えられる。
甘利明は謀略に嵌められた、との見方だ。
実際に週刊誌を引き連れての隠し撮りや、隠し録音の存在は、当初から甘利明を陥れるための悪意が感じられる。
しかしそれでも尚、甘利明が自身の立会いの下で、大臣室や事務室を利用して二回にわたり現金を受け取っているのでは、話にならない。
また、甘利明の秘書が度々接待を受け、果ては３百万円を着服したのでは、「秘書が勝手にやったことで、自分は知らなかった」では済まない醜態だ。
しかし記者会見を待つまでもなく、実は今回のスキャンダルに関して甘利明が言い逃れできない状況であることは、とっくの昔に判明していた。
それはこの問題が週刊誌で報道された直後の、甘利明の対応を見ればわかる。
彼は「報道と自分の記憶にギャップがあるので、慎重に確認したい」と言い訳した。
政治家が、「記憶」との単語を使った時は、１００％クロと断言できる。
数十万円単位のやり取りを、覚えていないはずがない。
ましてや、政治家にとっては最も注意を払わなければならない、政治資金の問題だ。
過去からこの処理を誤り、進退窮まった政治家は、枚挙に遑がないほど多い。
政府の重要閣僚まで務めた甘利明ほどのべテラン議員なら、何はさておいても細心の注意を払うべき問題のはずだ。
甘利明は、「現金の入った封筒を提供者の面前で背広の内ポケットに入れるなんて、政治家以前に人間の品格を疑われる」などと力説したが、そんなことはどうでも良いのであって、如何にも利権を求めて近づいてきた人間から、大臣室や事務所で現金を貰う感覚の方が、もはや政治家失格なのだ、
僕はこの問題に関してだけは、最近落ち目で政治的ダッチロールを繰り返している、かっての剛腕政治家、小沢一郎の「嵌められたのかもしれないが、やったことは悪い」との発言が正鵠を得ていると思っている。
甘利明は、政治家として、絶対にやってはいけない失敗をしてしまった。
甘利明が政権にあって、如何に重要な役割を担っていても、あるいは過去に素晴らしい政治的実績を上げていたとしても、もはや政治家としては失格だ。
甘利明は「この問題を秘書の所為にすることは、政治家としての美学、生き様に反する」と話したが、そんな美学があれば、ここは政治家を辞するべきだろう。
それこそが、彼の矜持のはずだ。
