帰国の機内映画で、角川春樹と森田芳光のコンビによる椿三十郎のリメイク版を見た。
たまたまその日、衛星放送で黒澤明の原作を放送したので、期せずして新旧の両方を見比べる事になった。
感想は・・・・ 今回の映画は、あの世の黒澤大先生の作品と比べる事すら失礼!似て非なる代物。
「双葉山と大鵬のどちらが強い?」と聞かれると、たいていは自分が見ていた側を応援したくなるのが人情だ。
我々昔の人間にとって、黒澤監督は映画界の天皇扱いだった。
当然、私メの意見はいささか黒澤贔屓で、客観性には欠けているだろう。
とは思うが、しかし、今回のリメイク版はひどい。
今回は、オリジナルの脚本はほとんどいじられていない。
ところが無論監督は違うが、俳優も全然違う。
三船敏郎対織田裕二、仲代達矢対豊川悦司、加山雄三対松山ケンイチ、小林桂樹対佐々木蔵之介、伊藤雄之助対藤田まこと、入江たか子対中村玉緒、団令子対鈴木杏。
その他あらゆるキャストの質が数段落ちている。
この中で、何とか原作に近い味を出しているのは藤田まことと中村玉緒ぐらいか?
主役の差は論外としても、最悪なのは室戸半兵衛を演じたトヨエツの声色。
仲代達矢のドスの利いた低音には程遠く、耳触りな甲高い声を張り上げるものだから全く興醒め。
同じ脚本でも、違った役者が演じるだけでこれほど迫力がなくなるものなのかと、呆れはててしまう。
映画評論家の(佐藤睦雄)と言う人がネットで、「結果的に、オリジナル版の名脚本をいじらずに撮影したことが成功の秘訣となった。(中略)黒澤版の偉大さを改めて思い知らされるという意味で、これほど素晴らしいリメイク作品はない。」と書いているのは、褒めているのか貶しているのか?
敢えて、無謀にも40年前の大作に挑んだ勇気は評価できるのかもしれないが、出来上がった映画を見る限り「原作とは違い、二度目も見たい映画には程遠い。残念ながら空振り三振」と言わざるを得ない。
因みに我が家では、黒澤明の作品はレーザーディスクで揃っており、暇な時にはたびたび見直している。