別にわが愛車「プリウス」を値下げするから文句を言うのではない。
トヨタの販売方針が、無定見で旧態依然としているのに腹が立っているのだ。
ホンダのハイブリッドカー「インサイト」が、発売以来の大人気でプリウスの牙城に迫ってきた。
理由は単純明快で、価格が二百万円を切った事だ。
しかし、自動車に詳しい連中の評価では、機能的には「プリウス」に到底かなわないので、価格が安いのも尤もだとみなされている。
ところがトヨタは、前例のないような販売方針を発表した。
なんと、モデルチェンジをした「新型プリウス」を二百万円程度に価格設定、旧世代の車種を大幅に値下げして「インサイト」にぶつけるとの事。
モデルチェンジなので、あるタイミングで新型車が大々的に売り出されて当たり前なのに、ただただ価格競争の為に旧型車も売り続ける積りらしい。
今回の価格では到底収益は期待できない事もミエミエらしいが、要は自動車不況の中で唯一評判のいいハイブリッド車分野をホンダと共に盛り上げていこうとの大人の対応ではなく、この分野を独占的に押えこむ為に「インサイト」を潰しにかかったものだ。
しかもこの方針は、次期社長に内定している御仁の考え方によるものらしい。
トヨタは、昨年秋に「プリウス」を値上げしている。
その時に購入した人こそいい面の皮だし、今回の値下げはだまし討ちに見えてしまうだろう。
しかしトヨタは、トヨタ車を購入したファン達よりも、眼前の敵だけしか見ていない。
マーケティングに一貫性のない会社としか思えない愚挙を仕出かしたものだ。
数年前に、トヨタの社員から聞いた話を思い出してしまった。
彼は、現社長の凡庸さを指摘しながら、次期社長に内定した御仁はもっと凡庸だと話していた。
流石に、社外の人間に幹部の評価をペラペラ喋るような無警戒の性格が災いしたのだろう。
彼は、今やどこかにいなくなってしまった。
しかし、彼が喝破していた事が頭をよぎるほど、今回のトヨタの決定は理解できない。
車が安く買える事は悪い事ではないが、消費者は少なくとも今まではトヨタ車の性能に対してキチンと対価を支払ってきた。
それが、モノ造りに拘るトヨタの矜持だったはずだ。
今やＧＭを抜き世界一のカーメーカーになったトヨタだが、昨年来の急激な収益低下の所為か、客観的なものの見方が出来なくなってしまったようだ。
