成田発上海行きの我が愛機JALは、順調に浦東空港に近づく。
わずか三時間のフライトなので、機中では窓を閉めて映画鑑賞に専念。
いよいよ着陸態勢に入ったので、やおら窓を開けて外を見ると、そこは広大な揚子江だった。
ところが、全面真ッ黄色。
小波が立っていて、船が数隻運航しているので揚子江と分かるが、それがなければまるで茶色の荒地の所々に、大きめの水溜りがあるようにしか見えない。
現地の日本人に聞くと、揚子江は一年中あんな色で、川上から黄砂を運んでいると説明してくれた。
こんな光景を見ると、否応なく中国の空気汚染への「期待」が高まる。
川がこんな状況なら、地上はもっとひどい惨状に違いない。
空港を出た途端、急に咳き込む。
それだけじゃなく、急性喘息に罹り、病院に直行されるのではないか?
被害者意識は妄想の域にまで達し、勝手に身震いがしてきた。
上海は急に冷え込んだとかで、気温9度。
かなり肌寒い。
勢い込んで空港を出るが、肝心の大気汚染は全く持ってさほどのことがない。
思惑外れでややガッカリ気味なのを見て取ったエージェントが、「気温と同じで、日によって違います。二日前はひどかった」と、妙な慰めをかけてくる。
「残念ながら」、この日は大変良好な汚染度らしい。
良好な汚染度とは分かりにくい説明だが、数日前はやはり目を開けるのも辛かったと聞くと、「しまった、遅れをとった」と思ってしまう。
上海に比べて北京の空気は甚だしく汚染されているらしいから、ラッキーな日にラッキーな場所に中国入りしたとも言えるが、元々怖いもの見たさの部分も多かったので、かえって物足りなさを感じるのは悪乗りが過ぎるか。
因みに昨今は、衛生的民族には程遠い中国人ですら呆れ果てるほどの空気汚染振りらしいが、それにしては上海では、見渡す限りマスク着用者ゼロ。
これではせっかく日本から三個も持参した、PM2.5用スペシャルマスクの出番がない。
日本ではPM2.5騒ぎの遥か前から、花粉症患者が大量にマスクをしていた。
ゴルフ場でも、競泳用みたいなメガネと大きなマスク着用と、スポーツにはまるで似合わないファッションのゴルファーを見かける。
中国人がマスクをしないのは、彼らは花粉症に鈍感だからなのかと疑問だったが、実は世界中見渡しても日本人ほどマスク大好き人種はいないようだ。
むしろ海外では、マスクをするほどの重病なら外出を控えるのがマナーらしい。
いずれにしても、中国中が深刻な公害の中で七転八倒しているのかと思いきや、上海界隈では至って普通で緊張感のない生活ぶりだったのに、拍子抜けした久しぶりの中国訪問初日となった。