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タイの民主主義

タイのタクシン派、反タクシン派の争いは、道路封鎖で経済活動も支障が出るなど、トコトンガチンコ勝負になってきた。
そもそもは、現インラック首相が、タイ国内で訴追され海外逃亡中の元首相タクシンを赦免しようと動き、反タクシン派の怒りを買ったことが直接の原因になっている。

タクシン元首相は、タイ軍部のクーデターで国外に追放された
普通なら、国際世論からは無条件でタクシンに同情するはずなのだが、首相の地位を利用して不正に財を成した罪であり、しかもそれがまるで事実なのだから、始末が悪い。
しかしタクシンは、不正手段で莫大な私財を成しただけではなく、それまで全く見向気もされず、発展するタイの落ちこぼれだった地方の農民や貧民層に、医療の低額化とか、施設面の充実とか、いわつるバラマキ政策をとったので、今でも圧倒的多数の人気がある。
一方の反タクシン派は、バンコクを中心とした富裕層や小市民が中心で、プミポン国王派とも見られているが、タイでは成功者の集合体なので、当然ながら少数派だ。
彼らからすれば、貧しい国民に施しを与えたタクシンは、国王の専権事項を犯した許すべからざる人物となっている。
国王を中心としたエリート勢力と、自らが国王にとって変わろうと画策したタクシンを支持する勢力との争いなので、中途半端な妥協はありえない。
今まで政情が安定しているとみられ、多くの外国資本、なかんずく日本企業が大挙して進出しているタイは、暫くは両派入り乱れた衝突が繰り返されるに違いない。

ややこしいのは、通常なら解決の切り札になる、「選挙による審判」が、タイでは通用しないところにある。
インラックに不信任を突きつけ、退陣を迫った反タクシン派は、「では選挙で是非を争おう」と国会解散を発表したインラック首相に対して、「選挙なしでの無条件退陣」を要求している。

通常の民主主義国家なら、絶対にタクシン派に理がある。
半数以上の支持を得た陣営が、政権与党になり政策を推し進めるのが、民主主義の基本中の基本だからだ。
ところがそんな選挙を実施すると、反タクシン派はまるで勝ち目がない。
反タクシン派は、タクシン派は貧乏人の票を買い取っていると批判し、選挙ボイコットを呼びかけ、インラックの無条件退陣を要求する。

これは、民主主義下では、誰もが同じ価値の一票を有することに原因がある。
確かに、多額納税者も、納税を免除され生活保護を受けている者も、一票は一票。
これは一見平等のように思われるが、決して平等ではない。
こう言うと、「金持ち優遇」と批判されるだろうが、現実は「貧者優遇」でしかない。
企業の株主総会では、投票の権利は所有株数に比例している。
国際連合は、人口の多寡にかかわらず投票権は一緒だが、それを補う手段として理事国とか、常任理事国とかの特権国家を用意している。
ところが、普通の民主主義国家では、投票権を持つ国民の権利は全く一緒で、まるで差がない。
その結果、タイのように、選挙では大多数の貧困層の支持を取り付けている勢力が、絶対に勝ってしまう構図が出来上がる。
反タクシン派は、選挙では勝ち目がないので、一種の暴力的手段で政権を追い込むしか方法がない。

反タクシン派は道路封鎖にまで先鋭化しているので、結局タイでは軍の力で片一方を押さえ込むしか方法がなくなるだろう。
タイは微笑みの国と言われ、タイ人は一般的に温厚な性格と見られている。
しかし既に死者が発生するまでに激突を繰り返すタクシン派、反タクシン派の争いを見ると、過半数の支持を集めた方が勝者になるという、多くの人が信じている民主主義の限界も見えてくる。
何だかんだと文句を言う人たちもいるが、取り敢えず公平な選挙が実施され、民主主義で国家運営できている日本は恵まれている。