昔は平凡な企業戦士、今は辣腕頑固老人の日常!

日頃の思いや鬱憤を吐露!無礼千万なコメントは削除。

字が書けなくなってしまって

昔から悪筆だった。
他人様にはほとんど解読不能な字だったが、学生時代までは何一つ不自由はなかった。
しかし仕事には、間違いなく支障があった。
字が下手だと、取引条件変更の伺いや、設備投資の伺いが、内容云々以前に通りにくいのだ。
決裁者が、美しい字でかかれた書類には、甘い判断をする傾向があったからだ。
悩んだ挙句に考えついたのが、今で言う丸文字を使うこと。
角を取り、丸い字を書くと、下手さが目立たなくなることに気がついた。
女子中学生や高校生が、丸文字を流行らす遥か前から、僕の書類は全て丸文字だった。

しかし時代が変わり、ワープロ全盛時代となる。
僕のような悪筆にとっては、地獄から天国に変わったようなものだ。
何せトントンとキーボードを叩いて入力さえすれば、見事に整った文字になる。
通常は絶対に使わない、「憂鬱」とか「薔薇色」とか、字数の多い漢字だってスラスラ使える。
悪筆人間には、書類を作る苦痛から解放された画期的出来事だった。

更に時代が進みパソコン全盛時代になると、自分で字を書くことはほとんどなくなった。
手紙だって、年賀状だって、宛先からワープロに入力し、印刷する。
手書きで温もりを感じる手紙を貰うなんて夢のまた夢、用事があればメールで連絡が普通になっている。
味気ないこと、この上ない。
ところがメールでは、どうしても用が足せないことがある。
モノを送る場合がそうだ。

仕事を辞めるにあたって身辺整理をしていたら、某社の食券がでてきた。
残金は1万円ほど。
その某社とはその昔、一年半にわたってJVを設立し一緒に仕事をした。
しかし親会社の様々な思惑違いから、結局はせっかく作ったJV会社の解散に至った。
現場同士は仲良くやっていたので、今になっても大きなビジネスチャンスを逃したと、惜しい思いがある。
中でも某社のT君とは、年齢こそだいぶ違っていたが、不思議とウマがあった。
会社解散後も偶には会って旧交を温めていたが、お互いの仕事が忙しくなり、また親会社同士はライバル関係なので、コンプライアンス上も誤解を招きやすい。
段々と、風の便りで元気に活躍していることを知る程度の付き合いに変わっていった。

そんな某社の食券など、残金がいくら多かろうと、僕が持っていては、「将に宝の持ち腐れ」だ。
これをT君に、贈呈しようと思い立った。
先ずは、彼がどこで働いているのかを調査する。
某社本店人事部に、「決して怪しい者ではござんせん」と断った上で、彼の現状を質問したが、「個人情報についてはお答えできません」と、取り付く島がない。
結局はあらゆるコネを伝って、やっと国内某所の某グループ勤務を探り当てた。
早速電話し、手紙を添えて食券を送ることにしたが、ここで大きな悩みにぶち当たった。

封筒には、自筆で宛名を書かなければならない。
悪戦苦闘して書いたが、出来が悪い。
しかも、甚だしく読みにくい。
昔懐かしい丸文字なのだが、どう贔屓目に見てもダラシがない文字にしか見えない。
何度も書き直したが、満足できるものができない。
ついに諦めて、中でも比較的読みやすい封筒に入れて送付したが、果たして郵便配達員が住所を読めるのか、そして無事に届くのかが心配だ。

メールやブログを書くことは平気だし、思っている以上のことを書いたりしている。
しかし実際に自分の手でモノを書く能力は、どんどん低下の一途だ。
果たしてこれは、自分が成長したのか、退化したのか。
That is a question. 難しいところだ。