昔は平凡な企業戦士、今は辣腕頑固老人の日常!

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病人の我が儘

人間、体の自由が利かなくなると、どうしても我が儘になる。
僕の姉がそうだ。
突然言葉を失い、家族で悩んだ挙句に、姉には「治す為に」と言い聞かせ、手術をする事を決定。
そして手術は成功したが、覿面に効果が出るわけがない。
ところが姉は、すぐに治ると思って手術に臨んだのに、何時まで経っても治りが悪いと不満タラタラになっている。

医者に文句を言い、何より家族には「こんな病院は信用できないから、すぐに退院したい」と我が儘を言い続ける。
顔を合わせる度に「早く手術費を精算して」と急かせ、とっくに自分で荷物をまとめているらしい。
何とか言い逃れをして帰宅すると、今度は電話攻撃をしてくる。
家族はほとほと参ってしまい、「そこまで言うのなら家で介護をしようか」とか考えて、電話相談してきた。

僕は心を鬼にして、「そんな事、現実には無理だ。今妥協すると、家族で二十四時間介護になる。そんな事は出来ないし、何より、手術直後の姉に異変が生じた時、誰が治療できるのだ。何と頼まれても、直るまでは入院させ続けるしかない。私たちでは世話ができないと言い切れ。家族の為だけではなく、姉の為にも妥協してはいけない」と叱った。
家族連中は、僕だけでなく、様々な人に相談しているようだが、中には「それも選択肢かもしれない」と無責任なアドヴァイスをする人もいるらしい。
冗談じゃない。
姉は、素人が面倒を見る事が出来るような、そんな軟な病気ではない。
誰が何と言おうと、今の医学環境で一旦手術をしたら、後は医者に全てを任せるしかない。

病人を抱える家族の心痛は、僕だって痛いほどわかっている。
姉の希望に応えてやりたいとの思いは一緒だ。
しかし敢えて、「我が儘は、母親が言っているのではなく、病気が言わせているのだ。壊れた機械が不協和音を発していると割り切れ」とも言った。
「分かった、心の整理がついた」と言っていたが、あの心の優しい家族連中が、果たしてそこまで言い切れるのか、正直言うと心配だ。

健康の時は体だけでなく、心にも余裕があるので、周りに気を配ることが可能だ。
しかし一旦病気になると、先行きへの不安感から、ついつい周囲にすがりたくなる。
「こんなに苦しんでいるのだから、周囲は自分の事を最優先して考えてくれて当たり前」と思ってしまう。
特にそれまで自分を抑えて、他人に配慮してきた人ほど、この傾向が強い。
姉が元気な時は、決して人の嫌がる事は言わなかったし、何よりも自分の関係者だけでなく、例えばウェートレスや店員に対しても、絶対に丁寧な対応を欠かさなかった。
誰から電話がかかってきても、最初には「お待たせしました」と言いながら、話し始めるような姉だった。

人間、トータルチャラ。
そんな事を思ってしまう。
そうなると、仕事では顧客や周りに気配りばかりしていても、家族や関係者には、お世辞にも「イイヒト」ではなかった僕は、一体どんな病人になるのだろうか?
きっと、嫌われ者になるだろうな。