南部鉄器は、昔から急須や灰皿が有名だった。
しかし重すぎるので、最近ではアルミや陶器を材質とした製品に取って変わられていた。
ところが世の中、何が功を奏するのか分からない。
南部鉄器の欠点だった重量が、逆に評価され始めている。
重くて扱いにくいのは、重厚で仰々しいと考えれば、却って有難味となる。
また鉄分が補給され、体にも良いと思われ、今や南部鉄器はすっかり復権している。
こんな傾向は、日本だけではない。
むしろ、日本人以上に健康志向で且つ見栄っ張りの中国人にこそ、重量感溢れる南部鉄器は大人気商品となっている。
中国人連中が来日するたびに、おびただしい量の南部鉄器商品を買っていくようだ。
お陰で、南部鉄器の中でも特に中国人が買い漁る人気商品は、地元の日本人でも「売切れのため在庫待ち」となっている。
南部鉄器コーヒーポットセットも、その一つだ。
中国では今、空前のコーヒーブームが起きている。
バブル景気のお陰で金持ちになった中国人は、コーヒーを嗜むことがステータスらしいのだ。
中国に行くと、上島コーヒーやスターバックスの有名店と並んで、聞いたことがない一字違いの紛い物チェーン店がズラリと並んでいて、どこも満員状況だ。
(他にも、パジャマ姿で外をうろつくのも、リッチチャイニーズの証しらしいが、こちらはみっともないので自粛運動が起きていた。)
そんな中国人は、中国の国産品を全く信用しない。
そこではるばる日本にまで押しかけ、金にモノを言わせ、高品質の日本商品の爆買いに勤しむ。
爆買は今年の流行語大賞の一つになったが、その南部鉄器コーヒーポットセットも、中国人のターゲットになってしまった。
今では彼のAMAZONでも、この商品は「在庫なし」状態となっている。
南部鉄器が、中国人にとって垂涎の的なのは、日本人としても誇らしい。
新潟の燕三条の金属加工でも、岐阜の関の刃物でも、姫路の火箸も、同じような技術の伝承があり、世界的にその優れた技術が認められている。
将に、日本の伝統工芸これにあり!だ。
そこで、実際に南部鉄器で煎れたコーヒーが、どれほど美味くなるのか確認しようと、八方手を尽くして南部鉄器のコーヒーセットを入手した。
やっと我が家に到着したその商品は、デザインがスッキリと垢抜けしているし、手にした時のズッシリとした重量感がたまらない。
肝心の味も、やっと入手できた有り難さからか、殊の外美味く感じた。
問題は、錆を防ぐための後処理。
思いのほか大量に出来上がるコーヒーを残したままにすると、すぐに錆びる可能性がある。
コーヒーを嗜んだ後は、すぐにポットを空にして、乾燥させておく必要がある。
少々面倒くさいが、これもまた伝統工芸品を使用するための必要条件と理解しよう。
やっと入手できた、岩鋳のコーヒーポットセット