昔は平凡な企業戦士、今は辣腕頑固老人の日常!

日頃の思いや鬱憤を吐露!無礼千万なコメントは削除。

知り合いの苦労人

知り合いに、自ら好んで苦労したとしか言えないほどの苦労人、山中鹿之助みたいな人がいる。

彼は大学受験で、京大、東大を狙い続け、四郎した。
結果的には、実力不足だったのだが、それを悟るまでに四年間と言う時間が必要だった。
結局は、高校の同級生が卒業する年齢で、地方の二期校に入学した。
卒業後は就職しなければいけないが、そこまで歳を食うと、雇ってくれる企業などない。
大学教授の努力もあって、やっとのことであるグループに拾われる形で、職を得た。

そこで獅子奮迅の大活躍をして、人によっては「掃き溜めに鶴」とまで評価されていた。
しかしそのグループは指導部が怠慢過ぎて低迷し、ライバルグループに吸収される羽目になった。
その時に彼は、「渇しても盗泉の水は飲まず」と意地を張り、先の見通しもないまま辞めてしまった。
そこから独学で、不動産鑑定士を目指したのが、50歳近く。
奥さんの収入だけが頼りのヒモ生活で、試験を受け続けるが、意欲はあるものの中々理解力が伴わない。
やっと合格し、資格を得たのは6回目の試験だった。
将に他人よりも余計に10年の年月を掛けて、やっと生計を立てる目処がついたほどの苦労人だ。

誰だって、出来ればこんな苦労はしたくはない。
しかし曲がったことが大嫌いで、自分のロマンに準じた彼には、多くのファンがいた。
捨てる神もいれば、拾う神もいる。
持ち前のフットワークの良さと人脈の豊富さで、不動産業者として成功を収め、70歳過ぎに引退した。

そんな彼が最も尊敬する人の孫が、大学受験に失敗したとの情報を得た。
僕は単純に、「落第した孫も大変だな」程度の感想しか持たなかったが、苦労人の彼はすぐに孫に対して手紙を書いたらしい。
そこには、自分が大学受験に四回失敗したこと、次に不動産鑑定士試験にも五回落ちたことを紹介し、「たかが一年の浪人生活なんて屁みたいなもの」と書き、二万円を同封し、「今日はこれで旨いものを食べて、次の試験に全力で立ち向かえ」と励ましたらしい。
孫からは、「これで吹っ切れたので、次は絶対に合格する」との力強い返信があったと話していた。

その孫は、翌年には希望の大学に合格し、卒業時には希望の就職先に採用され、社会人一年生として順風満帆なスタートを飾った。
そして、「あの時の手紙には、本当に勇気づけられた」と述懐しているし、何よりも彼が最も尊敬していたヒトは、孫を立ち直らせてくれたこの苦労人に対して心から感謝していた。

苦労はしないに越したことはないが、苦労して学ぶことがある。
彼が不動産鑑定士試験に五回も落ちたのに、それでも挑戦を辞めなかったのは、大学試験に四回も落ちた経験があったからに違いない。
他人に細かい気配りができるのは、彼が大学受験や就職で、人よりも何十倍も苦労してきたことがベースになっている。
少なくとも僕には、悲観に暮れている孫への、こんな優しい配慮は思いつかなかった。
病気一つしない人は、風邪を引いた時の辛さが理解できないから、「風邪如きで仕事を休むなど根性が足りない」などと暴言を吐く。
しかし自分が体が弱いと、病気の辛さがよくわかり、他人には優しくなれる。

苦労人の彼からは、教えられることが多い。