昔は平凡な企業戦士、今は辣腕頑固老人の日常!

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隣の火事

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夫婦での晩餐を終え、テレビを見ていた午後8時、消防車のサイレンが聞こえてきた。
「冬場は乾燥しているので、消防署が警戒を呼び掛けているのだろう」と暢気に構えていたら、段々サイレンの音が大きくなってくる。
 
様子見に出た妻が、血相を変えて戻ってきた。
「大変、大変!〇〇さんの家が燃えている!」
〇〇さんの家とは、我が家からは道路を挟んで二件目。
直線にしてわずか15メートル、将に目と鼻の先の場所だ。
慌てて外に飛び出すと、既にそこには多くの野次馬が集まっていた。
 
火災発生の家は、黒煙がもうもうと立ち込めているが、この時点で到着している消防車は、未だわずかに一台。
放水すら始まっていない。
ただ消防士同士の大声が飛び交い、顔つきは真剣そのもの。
現場の緊張感はただ事ではない。
その内に家の天井に向かって、猛烈な勢いで火が吹き上げ始めた。
途端に野次馬の歓声が上がる。
「喧嘩と火事は派手な方が良い」とは言うが、野次馬の心理はまさにそんなものだ。
しかしこんな火勢を見ると、同じ野次馬でも僕は、自分の家への延焼が気になってくる。
 
隣の店の御主人が心配そうに見守っていたので、火事の原因を聞いてみた。
すると隣の店主がから「火が出たので消火器を貸してくれ」と言われたが、それを使う間もなく「火が回ったので消防署に電話して」と頼まれたらしい。
火元の店には消火器を装備していなかったか、あるいは機能しなかったのか分からないが、調理場から火が出て慌てて隣に援けを求めたが間に合わなかったようだ。
 
たまたまこの日は、午前中は強風が吹いていたが、夕方から小雨が降り始め、且つ風もやんでいた。
住宅密集地で、しかも隣の家とは1メートルも離れていない。
新潟大火のような延焼を不安視していたが、最近の消防技術の進歩は凄い。
消防隊長の「絶対に延焼させるな」との命令一下、燃えている家の両サイドに集中的に放水しながら、中の火元を消火していく。
一時間程度経過すると煙が白く変わり、ほとんど鎮火していった。
最も延焼が心配された隣の家も、壁が煤くれた程度で済んだのが不幸中の幸い。
 
自分の家が燃え落ちていく様をただ見守るしかない火元のご主人は、玄関先に呆然と立ち尽くしている。
消防署からの事情聴取では、「コンロの下に置いていた段ボールに引火した」と答えたらしい。
家の外壁が残ってために、火災保険の扱いは「半焼」でしかないらしい。
この人は奥さんと子供が家を出て、たった一人で店を切り盛りしていた。
ただ昔から些かだらしない性格で、過去にボヤ騒ぎを二度も起こしていた。
仮に延焼の被害にあっても、火元への賠償責任は要求できないらしいし、火元の賠償能力も高が知れている。
実際の隣近所への迷惑は最小限で済んだが、精神的には大迷惑を被っている。
そんな場所で商売を再開するには、多くの試練が待っている。
やはり地震、雷、火事、親父!
最近では親父の権威は地に落ちてしまったが、昔から恐ろしいとされるモノには、謙虚に用心してかからなければならない。