会社員時代の酒の席では、いくつかの鉄板ネタがあった。
大半は会社の上役の悪口だ。
「あんな時代遅れのヤツがいる限り、会社は良くならない」
「能力もないのに、ゴマスリだけで偉くなったヤツ」
「失敗を恐れる臆病者」
「我が社も世直しが必要で、あんな役立たずは放逐するべき」
と、将に会社のために獅子身中の虫に天誅を加えるべきとまで酒が進む。
ところが翌朝その獅子身中の虫に会うと、にこやかに「オハヨ~ッス!」と挨拶する。
自慢じゃないが当方も、そんな会社員生活に終始していた。
続いて多いのが、スポーツ選手や芸能人のスキャンダルネタ。
これはどんなに破廉恥な話になっても、当事者から名誉棄損で訴えられる心配がない。
勢い、どこまで本当なのか、全く検証できないような話が飛び交う。
そんな場所では清純可憐な女優もアイドル歌手も、同棲説や堕胎歴などの標的になる。
尤も彼女たちも人気商売なので、見ず知らずの人間たちの下世話な話もまた、人気のバロメータなのだろう。
もう一つ、密かにだけど結構頻繁に話題にされるのが皇室ネタだ。
こちらは下手をすると不敬になり、ある筋に知られると殴られるかもしれないので、いくら酒の席とは言え小声でも情報交換になる。
しかし見てきたように臨場感溢れる内容は、芸能人のスキャンダルと全く変わらない。
このネタだけは、一般的なマスコミ発信のモノでは、全く関心が高まらない。
自分だけの情報源が、どれだけ人の興味を引くことができるかが勝負だ。
当方の場合は、この貴重な情報源には二ルートあった。
一つは、今上陛下と同窓で先輩からの情報。
これは主として、陛下の人品骨柄に関するものだった。
とにかく同じ学び舎で高校と大学生活を送っているだけに、普通には知られていない陛下の人となりを表すエピソードを聞いた。
ついでに、今上陛下だけでなく、弟君やご家族の性格も面白おかしく教えてくれたが、この点はどれほど真実かは知らない。
もう一つの情報源は取引先の社長。
実際は社長が「これは田中角栄の秘書から聞いた」と、又聞きのネタだ。
山尾志桜里や渡部建も真っ青のこの話が本当なら、皇室の大スキャンダルに発展する。
そんな奇想天外な内容だが、大手マスコミはおろか、SNSですら見たことがない。
これが「田中角栄の秘書から聞いた」との付加価値で、リアル感を持たせている。
しかし、本当に田中角栄の秘書が、そんな不敬極まりないような真偽不明な裏話を、唯々諾々と教えるモノだろうか。
それでも酒の席で「このネタ元は某超大物議員秘書」と披露すると、一気に座が盛り上がる。
各々が「これは秘密のネタだが」と言い出し、そこからは勝手気儘な脚色まで加わる。
しかし元々が胡散臭い話なので、今となってはかなり眉唾だ。
日本の皇室は、日本が世界に誇る「ワールドヘリテージ」だ。
だからどんな時でも、尊敬と感謝の念を欠かしてはいけない。
理屈ではそれが正論だし、誰も反対できない。
しかし酒の席で「ホンマかいな?」と思わせるような下ネタが語られても、神々しく、雲の上の皇室の皆さまの、耳を穢すことはない。
仮に万々が一耳に届いたとしても、下々の下世話な話に過ぎないので「フン!」と一笑に付されてお終いのはずだ。
こんなバカ話で盛り上がるのは、皇室がそれだけ我々の身近だけど、遥かに仰ぎ見る特別な存在の証拠だ。
古よりやんごとなき人たちは、庶民の井戸端会議の肴にされるものだ。