トリ貯めしていた録画を見ながら、今まさに寝ようとしていたら、嫁が突然スマホを手に部屋に入ってきた。
ご機嫌が悪い。
聞くと、兄(僕から見ると義兄)とラインをしていたらしい。
嫁が、最近のガースー政権のダッチロールを嘆くラインを送ったが、義兄からの返信が気に入らないようだ。
義兄は「(自民党総裁に)石破を選べば良かった」と書いてきた。
それを腹に据えかねた嫁は、直ちに激烈な石破批判を返したが、それだけでは怒りが収まらない。
鬱憤晴らしに、亭主(即ち僕)にその内容を伝えたかったらしい。
嫁が義兄に送ったのは
・石破は自民党内で全く人望がない
・石破はバカ、アホ、トンマ、眼付が悪く、口調が不気味な頓珍漢
・そんな石破を応援するなんて信じられない
と、極めて「理路整然」「冷静沈着」「論理的」反論だった。
義兄の石破推しを、目いっぱいこき下ろして気が済んだようで、その日はこれにて一件落着。
翌朝、今度は義兄からの反論が送られてきたが、その内容は
・国際情勢は複雑化、且つ緊迫している
・そんな中では、自民党内の人望など関係ない
・戦国時代で言えば、
今川がアメリカ、徳川が中国、武田がロシアで、日本は織田
・ここは嫌われ者の織田信長=石破の出番
・大衆迎合主義者が選ばれれば最悪となる
と、一見理屈っぽく見えるが、中身はまるで的外れ。
これを見て嫁は、更にヒートアップし、
・今の国際情勢を日本の戦国時代に例えても無意味
・そもそも何で、石破が織田信長なのか
・石破の主張は、
・石破こそ大衆迎合政治家
と、最初のラインよりも更に過激な非難メールを送った。
義兄には幼いころから、妹を庇うのが兄の役割との使命感があった。
その分いつも、上から目線の保護者として妹を見ていたのに、突然その妹が、予想外の猛烈な批判を浴びせてきた。
さぞや、面食らっただろう。
このままでは、目下であるはずの妹に、論破されるかもしれない。
そんなビビリから義兄は「お互いに無いモノ強請りだね」と返信し、何とか決着不明の軟着陸を図ってきた。
嫁の方は、それで腹の虫が収まる程度の怒りではない。
・そもそも義兄が石破を総理大臣にしたかった理由を聞きたい
・それを戦国時代を持ち出し、煙に巻くような理屈で誤魔化した
・それは野党得意の論点ずらしと同じだ。
・キチンとした誠実な答えがない
と、ドンドンご立腹状態が進行する。
僕は、身贔屓かもしれないし、石破茂嫌いの共通項の所為かもしれないが、この議論は嫁に分があると見る。
僕も、石破ごときが総理大臣になれば、日本は破滅と思っていた。
問題は、本来保守的思考の持ち主だったはずの義兄が、何故石破支持になっているのかだ。
嫁は「朝日新聞の所為に違いない」と推測する。
嫁の実家は、長らく読売新聞の読者だった。
そこに朝日新聞勧誘団が来て、三か月無料+諸々の景品を提示した。
そこで義兄は朝日に切り替えたのだが、嫁は石破同様に朝日新聞も嫌っているので、これにも不満を漏らした。
その時の義兄の言い分は「敵の考え方を知る必要がある」だった。
ところが朝日新聞を読み続けているうちに、敵を知るつもりだったのが、敵に取り込まれてしまった。
ミイラ取りがミイラになった。
嫁はその結果、義兄が朝日新聞の一番推しだった石破を応援するまでに変節したと推測している。
果たして、嫁の憶測が当たっているのかは分からない。
嫁に対して「これ以上、兄さんを追い詰めない方が良い」とアドバイスしたので、再々度のライン返信はやめたようだ。
突然の噛み付き亀登場に吃驚したであろう義兄は、鉾が収まったので、ホッと一安心しているだろう。
ただ兄妹の間で、こんな政治談議が戦わされるのは、ある意味仲の良い証拠でもある。
兄弟は他人と言われ、いつの間にかほとんど付き合いがなくなるケースもあるが、嫁と義兄は離れて暮らしているものの、コミュニケーションが活発だから話し合いにもなる。
義母の遺言は、「兄妹二人、いつまでも仲良くして」だった。
兄と妹が、政治を巡って激論を交わす。
そのベースになっている、兄妹間の信頼感と対話の盛り上がりを、義母は草葉の陰で喜んでいるに違いない。