今年の初詣

我ながらいい加減な宗教観だが、 我々夫婦は正月に我が家から500mほど離れた近所の神社に初詣に行くのが毎年の恒例だった。
 
テレビ番組のレポートによると、有名どころの神社への初詣は押すな押すなの大混雑になるようだ。
しかしこちらは全く無名の地方神社なので、参拝客は至って少ない。
長くても10組ほどの家族連れがお賽銭を片手に列をなす程度なので、気楽にお参りできる実にありがたい神社だ。
 
しかし昨年の秋口から、我々夫婦を取り巻く環境は激変していた。
この間大病と闘っていた妻がやっと退院したのが12月17日、初詣のわずか二週間前だ。
もちろん体力も回復も道半ば、と言うよりまだまだ序の口程度なので、さすがに今年の初詣は見送りと諦めていた。
ところが妻の方から「初詣に行こう」と提案された。
 
思いの外暖かい正月だった所為かもしれないが、妻の積極的な姿勢が嬉しい。
ならばと早速出かけたが、神社までの道のりの最後の50mほどは結構な坂道となっている。
健常者にとっては軽々と歩ける上りだが、ほとんど家の中しか歩いていない妻にとっては簡単ではない。
結局は途中で一休みすること二回、やっとこさで神社の鳥居をくぐった。
しかしここでも最後の関門として、わずかに上りの参道と、最後の祭壇への10段ほどの階段がある。
妻はここまででほぼ体力を使い切ったようで「私はここで待っているから」と初詣の全権を僕に託してきた。
しかしここまで頑張って辿り着いたのだ。
ここで神様へのお願いを諦めるのは余りにも勿体ない。
そこで最後の階段は、僕が抱きかかえるように支え、持ち上げるようにして階段を上った。
 
二人並んで御神前に進み、お賽銭を上げ、二礼二拍手一礼で神様にご挨拶。
内容はもちろん、家族全員の健康。
大変な苦労をして初詣に参じたのだから、神様もきっと我々夫婦のささやかな願いを聞き届けてくれるはずだ。
 
参道の帰路、記念に神社を写していたら、見知らぬ人が「写真を撮りましょうか?」と声をかけてきた。
しかし近年の僕は、自分の写真を撮られることを極端に嫌がってきた。
若かりし頃と今の自分の余りの違いを目の当たりにして、愕然とするからだ。
この時も「ありがとうございますが結構です」と、即断で断った。
 
ところが元々どんな観光地でも、自分の写真を撮りたがっていた妻の方は違う。
「せっかくの機会だから、夫婦で写真を撮ってもらおう」と、自ら頼みに行った。
その結果、この神社の初詣で初めて、二人揃った記念写真を撮ることとなった。
若干不安だったが、僕の顔も最近になく上出来に映っていたので大いに一安心。
これもまた、神様の思召しなのだろう。
 
俄か信者だけど、神様、今年こそ家族の穏やかな一年をお願いします!