昔は平凡な企業戦士、今は辣腕頑固老人の日常!

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超有名プロ、命!

日本のさる田舎町で、痛快な親父さんにあった。
彼は、その町では知らぬ人がいない程の著名人、ある会社の社長さんだ。
しかし彼が有名なのは、事業よりもむしろ彼の趣味の方。
分別盛りの60数歳にして、何と熱烈な横峯さくら追っかけファンなのだ。

雛には稀な料亭で、彼と宴席を設けた。
先ずは、財布から徐に、「彼と彼女のツーショット写真」を取り出し、宝物のように自慢気に披露。
「今年は、北は北海道から南は沖縄まで、17試合、34日間、横峯さくらについて回った」らしい。
彼女の活躍ぶりは逐一覚えていて、「あの時のミスショットが残念」とか、未だに悔しがっている。
「何が切っ掛けですか?」と質問すると、暫く考えて「彼女の全てが好きになったから」と答えた。
「彼女は優しく、礼儀正しい素晴らしい女性だが、何より、彼女ほどゴルフ一筋のプロゴルファーはいない」と、まるで年甲斐もなく恋する少年のように熱烈に称賛する。
「日本代表としてあの小さい体で女子ツァーを引っ張っているんですよ。辛い事も多いと思うけど、彼女はいつも明るいですよ」と、称賛の嵐は止まない。

「実は僕も横峯のファンです」とゴマをすると、「それでは」と様々な試験問題が出される。
取分け昨年、彼女が賞金女王になった最終戦の話になると、双方とも俄然力が入る。
社長:「あの時のさくらには、奇跡がいくつも起きました」
当方:「知っています。トップボールがピン直撃のバーディー、グリーン手前ラフからベタピンのアプローチ」
社長:「そうそう、よく覚えていますね」
当方:「彼女、プレイオフの準備中に優勝を聞いてへたり込みましたよね、『本当?』って確認した後」
社長「ワシ、その場におったよ、あれは感激だったナァ」
すっかり意気投合し、次は彼のホームコースで一緒にゴルフをする事になった。

翌朝、彼の会社に行くと玄関に派手なクリスマスの飾りつけが施されているが、正面に「さくらがんばれ」の飾り文字があり、サンタクロースの格好をした横峯さくら人形が艶然と微笑んでいる。
会社の一角に「さくらの部屋」があり、ど真ん中に私設応援団の応援旗が鎮座しているが、トーナメント開催中は、国旗、社旗と並んで、この応援旗がこの会社の正面玄関に棚引くとの事。
部屋中に、横峯さくらのポスター、ツーショット写真の数々、彼女が競技で使用したシャツ、手袋、帽子が多数陳列されている。
彼女の記事は、細大漏らさずスクラップされている。
極めつけの自慢は、彼女のキャディーバッグとパターで、誰にも触らせないらしい。
既に来年の競技スケジュールも張り出され、応援に駆け付ける為だけの出張も組まれている。
地元の試合には、社員も駆り出して応援旗を広げ、大声援を送るらしい。

彼は「仕事もそっちのけで、さくら命!の社長に、皆さん呆れていますが、社員の頑張りで業績も良いので安心して応援できます」と、少しテレた。
しかし、ここまで徹底すると、むしろ商売にはプラスになる。
トーナメント開催地に近い顧客から「当地へは、いついらっしゃいますか?」と、お誘いがかかるらしい。
全国から親切な人が、「こんなグッズ見つけました」と送ってくれると、その全てが「さくらの部屋」に飾られる。
「ワシと話すと、皆さん、さくらのファンになってくれます」と言うが、彼の一途な一所懸命さが立派な会社の売込みになっている。
門前の小僧でもないが、社員もすっかり横峯さくらの大ファンばかり。
「応援ぶりは、査定にも影響させます」と笑う社長だが、その天真爛漫さが社員からは愛され信頼されている。

話題の90%は横峯さくらに関する事ばかりで、肝心の仕事についてはほとんど皆無。
当方、こんな仕事振りもあるのだナァと、改めて感心しきりの親父さんだった。