最近では「お持ち帰り」には、オシャレに「テイクアウト」なる英語表現もある。
しかしその昔、僕が平凡な「辣腕」企業戦士だった頃の「お持ち帰り」と言えば、海外出張時の夜のお遊びを指していた。
カラオケバーや飲み屋で横に座ったホステスを、店がはねた後、ホテルに連れ込む行為だ。
特にバンコクでは、オリエンタル・バンコク以外では、どんなに名にし負う超有名ホテルでも、この「お持ち帰り」は日常茶飯事だった。
これが楽しみで、用もないのに用事を作って、バンコクまで出かける不心得者もいた。(詳しくは知らんけど)
ある時、バンコクの五つ星ホテルに宿泊し、ゴルフコンペ参加のために、早朝5時にロビーで待ち合わせした。
するとその時間に、前夜「お持ち帰り」された女性が、部屋から続々と出てくるシーンを目撃したこともある。
ある友人は、「お持ち帰り」した女性が、ベッドの上で一心に祈っている信仰心の篤さに、感激したらしい。
そこで祈った内容を聞くと、「仏様、私は今からいけないことをしますので、どうかお許しください」だったらしく、すっかり戦意を喪失したと嘆いていた。
もちろん、聖人君主で品行方正だった僕には全く無縁のモノで、全部他人の話だが。
その「お持ち帰り」が、最近の飲食店のトレンドとなっている。
こちらは、言わずと知れた武漢ウィルスの所為だ。
三密禁止で、営業自粛を余儀なくされた多くのレストランや食堂が、「お持ち帰り」製品を販売開始しているのだ。
時節柄、店内営業は完全に中止して、「お持ち帰り」に特化している店もある。
僕の行きつけのラーメン屋も、苦肉の策で「お持ち帰り」メニューを追加した。
流行っているとは言え、ごく普通のラーメン屋だから店内は狭い。
しかも、流行っているからこそ、客が多い。
客同士が大声で喋ることは少ないが、狭い空間に客が密集することは避けられない。
だから、超小規模個人経営のラーメン屋に対しても、行政から自粛要請があるらしい。
物は試しと、昼にラーメンを食べた後、その「お持ち帰り」商品も買ってみた。
翌日、我が家で食べてみると、これが実に美味い。
考えてみれば、材料は全て店で実際に使っている麺、メンマ、焼豚、ネギに、これまた店で作ったスープなのだ。
家でやることと言えば、やや大きめの鍋で麺を戻す程度なので、ごくごく当たり前に、店の味が再現される。
しかも次回、このスープ容器を返却すると、ラーメン一玉がサービスされる。
店と同じ味で、大盛り扱いになり、値段も安い。
すっかり病みつきになったが、好事魔多し。
この店も、今週から当分の間、完全営業自粛になるらしい。
再開の目処を聞くと、「政府の方針次第」と答えるが、その政府は連休明けも自粛要請を続ける積りだ。
という事は、大好きだったラーメン屋だが、次に何時、店が開くのかは武漢肺炎の終息状況次第になり、要は、何時また食べることができるのか分からないのだ。
店が「お持ち帰り」を売り出すのは、少しでも売り上げを維持したい思いもあるだろうが、やはり客離れを防ぎたいからだろう。
どんなに贔屓にして貰った客でも、店の味から遠ざかると、戻ってくる保証はない。
特にラーメン屋のような激戦の商売だと、固定客が減るのは不安に違いない。
また現実的には、いくら後で補償があったとしても、自粛による売り上げ減は経営を直撃するはずだ。
愛想の良い店主夫妻だけに、応援したい気持ちはやまやまだが、店が開いてない以上、どうしようもない。
明日から休業なので、せめてもの支援策で、昨日に続いて二日連続で「お持ち帰り」することにした。
それにしても、改めて身近な店舗を襲った、武漢ウィルスの罪の大きさに腹が立つ。