若かりし頃昭和46年、ちょうどニクソンショックの「円切上げ」で、日本中が大騒ぎになった。
それまでは長らく1ドル=360円時代で、このレートが変わるなど考えた事がなかったからだ。
「輸出の手取りが悪くなる」程度の情報は新聞記事で紹介されていたが、その内容は分からない。
当時就職活動中だった僕の友人は、面接官から「円はどこまで上がると思うか?」との質問に、「400円は間違いないと思います」と答え、当たり前だが落とされてしまった。
「俺、何か間違ったのかな?」と首を傾げていたが、経済学部だった彼でも、円レートに関してはこの程度の知識しかなかった。
以降凡そ40年、基本的に円レートは上がり続け、現在は1ドル=85円程度となっている。
僕の小学校時代は、「日本は加工輸出国」と教えられたもので、日本の冠たる企業の大半は、優れた自社製品を海外に販売する事で利益を出しているので、円レート切上げは即刻収益減になる。
だから円レートが強くなると、必ず産業界から悲鳴に近いブーイングが上がる。
時の政権や日銀は、円高回避へ必死の介入を強いられる。
ちょっと前まではヨーロッパの威勢が良くて、ユ―ロ絶好調、円はソコソコ。ドルだけが不調だったのに、ヨーロッパ経済が失速、ついでに韓国ウォンも絶不調、中国の人民元が切り上げに動いたものだから、日本がどんなに円高を回避しようとしても効果が上がらない。
当分は、強い円の時代が続くと見た方が現実的だろう。
感覚的に円レートを見るには、ゴルフのハンディに置き換えると分かりやすい。
1ドル=360円のゼロをとって、ハンディ36と考える。
日本は、初心者として戦後25年間、最高ハンディの36を貰って国際競争に参加、あらゆるビジネスチャンスを勝ちまくった。
お大尽パトロンで世界最大市場のアメリカは、長らく日本の活躍を大目に見ていたが、アメリカ国内で、「日本がハンディを利用して賞金稼ぎするのは不公平」との世知辛い非難が高まったので、日本のハンディを36から32、更に24にと、ドンドン且つ大幅に切り上げた。
ところが、真面目で器用な日本は、どんなにハンディが上がっても、クラブを改良したり、練習に励んだりして、相変わらずコンペで優勝し続ける。
段々腹が立ったアメリカは、「これでもか!」とハンディを上げる。
日本はとうとうシングルハンディプレイヤの8にまで上り詰めたものの、本当の実力はハンディ12くらいと思っている。
事あるごとに、「シングルでは勝負ができません。何とかハンディ改正を」とアメリカに泣きつくが、すっかり年をとり余裕を失ったアメリカは、「今まで稼ぎまくって、今更泣き言なんて勝手すぎる」と聞く耳を持たない。
アメリカは、更に厳しいハンディを日本に課す事しか考えない。
と、マァこんな所でしょう。
確かに1ドル=120円、すなわちハンディ12程度が、分相応のちょうどいいバランスに見えますなァ。
しかし、円高は悪い局面ばかりではない。
何より日本は、あらゆる産業と製品のベースになる原油や様々な原料を輸入、それを加工する事で国が成り立っている。
「利は元にあり!」なので、主原料が安く調達できる円高が、有利な場面も必ずある。
要は、政治が円高で得た利益をどう配分するかが最重要なはずだ。
円高歓迎の産業が、馬鹿の様に大喜びするのは品がない。
その昔、1ドル80円を突破した歴史上円最高値の時、有名スーパーマーケットの担当者が「円高大歓迎、ドンドン上がって欲しい」と満面に笑顔を浮かべていたが、この会社はその後潰れてしまった。
円高で苦しむ国民も半分いて、その人達も自分のお客さんだとの配慮があれば、こんな利己主義の発想にはならないはずで、こんな所からも、円高に如何に日本中が無知で一喜一憂しているのかが良く分かる。