昔は平凡な企業戦士、今は辣腕頑固老人の日常!

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最後の一線を越える?

誰もが知っている日本のエクセレントカンパニーに、我が社の製品を売り込んだ事がある。
仮にD社としておこう。
今でも就活中の学生さんには、必ずトップ10に入るほど人気のある会社だ。

その地方工場の技術屋さんが、我が社の製品に関心を持ってくれた。
早速工場に持ち込んでテストするが、最後の所でどうにもうまくいかない。
D社の機械は、アメリカの企業が世界中に大々的に売り出したものだが、日本ではD社に独占的に販売する契約となっていた。
その機械との相性のいい条件が、なかなか見つからない。
我々は技術屋さんに、学術書から想像した機械図面を示し、「秘密の機械だろうが、このような構造のはずだ。ここまで分かっているので、両社立会のテストをやりたい」とお願いした。
D社は秘密漏洩を防ぐために、工場内の製造現場には部外者立ち入り禁止だったからだ。

人柄の良い技術屋さんは「分かった。工場長に掛け合ってくる」と理解を示してくれたが、小一時間ほどして帰ってきた返事は「やはり駄目」だった。
彼は工場長に対して「既に機械のあらましはバレているので、いくら隠しても意味がない。それより一緒にテストした方が成功確率は高くなるし、解決も早い」と説得したらしい。

しかし工場長の返事は、
「彼らはあくまで機械構造を想像しているだけなので、実物を見るまでは自信があるわけではない。しかし実際に機械を見ると、その瞬間から確信に変わる。だから、最後の一線は絶対に守らなければならない。我が社の場合、部外者を工場に入れるのは最後の一線を超える事だ」
との事で、立会テストにはNo。

確かに、百聞は一見に如かず。
いくら学術書で勉強しても、実際にそれを見るまでは自信があるわけではない。
全てをバラしてしまうと、それなりに得るものもあるが、一方では失うものも大きい。

最後の一線を守る。
僕は、35年も前のこの工場長の言葉を、今でも鮮明に覚えている。