昔は平凡な企業戦士、今は辣腕頑固老人の日常!

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安売りに明日はない

メーカーの営業をしてきたので、いつも価格交渉に明け暮れていた。
原材料が上がれば値上げ。
市況が悪化すると、顧客が否応なく値下げ要求してくる。
その度に、ああでもない、こうでもないと交渉を繰り返すことになった。
そんなこんなで四十年が経過したが、結局のところ、製品価格は入社した時のレベルをウロチョロしただけだった。
必死の努力で値上げしたが、なんだかんだと理由をつけて、その分を値下げしたことになる。
それもこれも製品のシェアを守るためで、製造現場には、涙が出るほどのコストダウン努力を強いることになった。

当初は国内のライバルメーカーだけが敵だったが、バブル崩壊以降は海外品までが跳梁跋扈するようになり、一挙に競争が国際化してしまった。
背と鼻が高く、目の青い連中の情報収集が必要になり、英語に接する機会が増えたが、フライ級選手がヘビー級選手を相手にするようなもので、何とか正面衝突を避け、テクニックでごまかしながら、生き残りを図り続けることになった。
この間、やれマネジメントとか、戦略とか、アメリカ仕込みの小難しい理屈を教わったが、世界を相手の体力勝負には勝てっこない。
最後は顧客との人間関係が頼みの綱だと認識するまで、かなりの時間と経験を要した。
しかしその顧客もまた、海外勢相手の戦いに明け暮れ、必死に生き残りを図っている状態だ。

その長い経験で学んだ営業哲学で、これは未来永劫続くに違いない真実を一つだけ上げれば、「安売りに明日はない」ということだ。
それまでの実践とはまるで違う結論だし、世の中ではあらゆる場面で熾烈な価格競争が繰り返されている。
一見矛盾しているように見えるが、冷静に見れば、値下げが可能なのはコストが下がるからであり、シェアアップや防衛のための値下げ競争そのものが目的化されると、企業は消滅する運命をたどる。
価格破壊で一世を風靡したダイエーの失敗が、そのことを如実に物語っている。

安売りは、ねずみ講と同じだ。
人口が無尽蔵に増え、店舗を拡大できれば成立するかもしれない。
ダイエーは、既存店舗を担保に借金し、次々と店舗を増やしていた。
しかし商品を安売りするだけに、売上げは思ったほどには伸びない。
窮余の一策で、高価格製品も打ち出したが、安売りイメージが染みついたダイエーの高値商品などを買う人はいない。
最終的には、資金繰りに窮して破綻してしまった。
現在飛ぶ鳥を落とす勢いのユニクロは、日本だけでなく世界進出でこの矛盾を解決しようとしているが、本質的にはこれもダイエーと同じ運命をたどる。

自動車メーカーの販売競争は、国内でも海外でも最も激烈なものだが、彼らの収益力が落ちないのは、販売価格に見合う以上のコストダウンを実現しているからに他ならない。
人件費や物流費削減のために、海外の至る所に生産拠点を作ってきたが、しかしこれとていずれはコストダウンの限界に行き当たる。
既に中国の人件費高騰は、製造拠点としての魅力を喪失している。
この時には、高級車で利益を上げるか、あるいは製品価格を上げるしかなくなる。
それができるかどうかが、企業の競争力となる。

安売りは、顧客の支持を受けやすい。
しかし裏付けのない安売りは、徐々に企業の体力を奪い、最終的には必ず破綻する。
営業は社内で製造や研究に対して、「売れる価格で作ってくれ」と、よく口にする。
コストダウン努力は永遠のテーマだが、打ち出の小槌があるわけではない。
営業がコストプラスアルファで販売しなければ、会社はつぶれる。
デフレで国が袋小路に陥っているのも構造的には全く一緒で、「安売りに明日がない」。